「…ねえ、」
「うん、聞いたー本当に仕事してないのかなー?」
「でもさー…」
「あー……それって……」
「そーそー!……でさ、……みたいな!」






テニス部大好き!といつも大声で言っているクラスの女子がわたしを見ながら話していた。
多分あの子達はファンクラブみたいなものにも入ってる。
流石に聞こえはしないけれど何を言っているのかは大体つかめた。
たいして仲良くないわたしと大好きな切原くん。
どっちの言う事を信じるかなんてわかりきってる。
それにわたしは弁解するような事もせずに黙ってるだけだし、見る人から見れば反論できずにうつむいているようにも見えるだろう。


ぐ、とノートを握る手に力が篭った。





「…あんたは真面目だからさ、手抜くとかできないじゃん。わたしそれ知ってるから」
「…美尋さん、…ありがとう」
「別に、思った事言っただけだから」






美尋さんに励ましてもらって、少し元気が出た気がした。
まだ視線は感じるけど気にしない事にして授業を受けた。




















「じゃあ部活を始める。まず一年生は…」



準備体操を終えて部長が指示を出し始めたのでわたしも仕事をしに部室へと戻る。
まず今日の仕事は…最初にドリンク作っちゃおうかな。
冷やす時間は少しでも長い方がいいだろうし。






「…どこ行くんだよ」
「え、部室に…」
「ふーん、涼しい所にサボりに行くんだ?」
「そんな事ないですけど」
「どうだか」




歩き始めた所で切原くんに絡まれる。
隠そうともしない不機嫌さを顔に出してわざわざ嫌味を言ってきた。
本当にサボりに行くんじゃないのに。
部室でだってやる事はたくさんある。
掃除だってドリンク作りだって洗濯だって部室周辺でやってる。




「何やっとるんじゃ」
「あ!におー先輩!」
「…」
「こいつがまたサボりに行くみたいなんで」
「違うんですけど」
「それはいかんのう」



にやにや笑いながら近づいてくる先輩。
違うって言ってるのに。




「…失礼します」
「あ!だからサボんなって!」
「サボってないです!」
「…本当かのう」





きっ、と先輩達を睨みつけて部室に戻る。
大きく音を立てて扉を閉めて、こぼれ落ちそうになる涙を必死で耐えた。
血が出てくるんじゃないかと思うくらいに強く唇を噛んでドリンクを作る。
目元はかーっと熱くなって行くのに蛇口から流れ出す水は冷たかった。







「…ちっ、あいつ絶対また逸月にばっか仕事させてるんスよ!」
「まあまあ落ち着きんしゃい」
「でも先輩!」
「ほら真田がおこじゃよ。早く行くぜよ」





「なんだよ…!」









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