行きたくない行きたくない。
部活に行きたくない。


朝起きて最初に今日も部活がある、と肩を落とす。
そのくらいわたしは先日の一件が心にきた。
思えば生ぬるい人生を歩んできた。
何故かわたしに甘すぎる兄と優しい両親、友達にも恵まれていた。
女の子特有のネチネチとした陰険な修羅場を味わう事なく、穏やかに過ごしてきたのだ。
正直わたしは地味だ。
だからこそ面と向かって叩かれる事はなかった。

それが、だ。

血の気の多い暴力的なテニスをする名前を知っている程度の仲の男子に嫌われた。
くっそ怖い。
耐性がないのに人生初の修羅場がハードすぎる。



それでも無断欠席できないチキンのわたしは部活にいかなければならないのだ。
そう、わたしは平穏すぎる毎日の中ですっかり度胸が失せていたのである。



まずあの男とはクラスが一緒だ。
話す事はまずないけれど、一緒の空間にいるだけで胃が痛む。
美尋さんにもメンタル弱すぎでしょ、と言われた。
でもちゃんと心配してくれるから彼女は優しい。



「…っち」
「…」




運の悪い事に席も隣ではないものの近い。
よそよそしい態度はそれこそ中学の頃からだったけど最近は嫌悪感をもろに出してくるからたちが悪い。





「赤也」
「柳先輩!どうしたんスか!?」
「神田はいるか」
「…いますけど。何でっスか?」
「部活の事で話があってな」



「…あいつ仕事してねえじゃないですか。逸月に言った方が良いと思うんスけど」
「…赤也」




元々の声が大きい切原くんの声はもちろん今も特別潜められてるわけではなかった。
一気にクラス中の空気が冷える。
それを察したのか柳先輩は切原くんを咎めた。




「…悠、」
「ん、別に大丈夫だよ」



「神田」
「はい」
「今日の部活、このノートを纏めておいてほしいのだが…」
「わかりました」
「…少しペンを借りても良いだろうか」
「どうぞ」




ノートにさらさらと何かを書いてからわたしにぽん、と渡してから柳先輩は自分の教室に帰って行った。
ずかずかとわたしの隣の席に戻ってきた切原くんはどか、と乱暴に座ってから少しするとクラスの皆は次第に口を開き始め、すぐにいつも通りの賑やかさに戻った。


美尋さんは黙って切原くんを睨んでいた。
切原くんも機嫌悪そうに次の授業の教科書を机に叩きつけた。
わたしはやる事もないのでぱらぱらとさっき渡されたノートを開く。






いつも悪いな 
感謝している





柳先輩の達筆な字で最後のページに小さくつけたされていた。
きっと去り際に書いたのだろう。




「……」






柳先輩くそいけめん。






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