「じゃあ私は先生の所に行ってくるからこっちは頼んでもいいかな?」
「ええ」
「じゃ、」
「ねえ」
「ん?」
「嫌じゃないの?」



嫌じゃないの、と聞かれても何の事だかよくわからなくて首を傾げるしかなかった。
言いにくそうにしてる様子を見てあ、とひらめく。




「…レギュラーのこと?」
「…わかってたのね」



まあ美尋さんに言われなかったら微塵も気づかなかっただろうけどね。
それに好都合っていうか。




「わたしはさ、仕事ちゃんと出来てるし何も言わないよ」



ふ、と床の埃が目についてそこに目をやる。




「(…本当にテニス部のことを考えてるのね…)」
「(ホウキどこやったんだろ)」



あ、倉庫の方に置きっ放しかも、と部室を出ようとする。
先生の所行って、帰りにホウキ持って帰ってきて空いた時間に掃いとけばいいよね。




「待って!」
「え」
「でも、あなた中学の時もやってたんでしょ?それが、こんな扱いで…わたしなら、わたしなら」



何故か知らないうちにシリアスモード全開の真北さんは辛そうな顔をしている。
うーん、真北さんはレギュラーと仲良いけどわたしも他の人たちと仲良いしべつに酷い扱いされてるって事はないけどね。
合う人合わない人いるしね。
それに



「わたし多分もうすぐテニス部やめるしね」



あは、と笑う。
ば、と顔を上げてわたしを凝視してきた真北さん。



「そ、そうなの?」
「うん」
「それは…何でか聞いても…」
「うーん、もういいかなって」



バスケしてもいいよね、ずっとやりたかったし。
そう言うとまた泣きそうな顔をする。
美人泣かせるとかちょっとやだからやめて。
彩音ちゃんもだけど美人な真北さんが暗い表情をするとこっちが悲しくなる。




「ん、もういいかな?」



先生の所行かなくちゃいけないし。
今度こそ部室から出ようとしたけど今度は腕を掴まれて阻止される。
ちょ、本当になに?
先生待たせっぱなしだよ。




「わたしが行ってくるわ」
「え、ほんと?」
「ええ、だからあなたはあなたのやるべき事をやって」



それは掃除ってことですね!
うわー察しもいい!
有能美人!
颯爽と部室を去って行く真北さんの背中を見守る。





「逸月、俺今から試合なんだけど見ててくれないかな」
「逸月の応援あるなら俺いつも以上に頑張れるのになー」
「嫌よ、わたしにも仕事があるもの。練習に集中しなさい」





真っ直ぐ歩いて行く真北さんとは逆方向の倉庫にのそのそと歩きながら思った。
ホウキバド部の掃除だからって貸したの忘れてた。





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