真北さんの正式な入部から少し経った。
驚くべき速度で仕事を吸収して行く真北さんにはもう感謝の念しかいだけません。

でもやっぱり真北さんはわたしとは喋ってくれない。
話しかけても少しこっちを睨んでどこかに行ってしまう。
でも柳先輩とお話していたりするといつの間にか隣にいる。
あ、ちゃんと話は聞いておこうって事ね。
仕事熱心万歳。


洗濯はあんまりやってくれないけど、ドリンクはたくさんつくって小まめに持って行ってくれるから選手はありがたがってる。
わたしもありがたがってる。





「ふーぅ、安泰やで!」
「何キャラ?」
「何でも!後は普通に話せれば言うことなしですねー」


クラスでの一時。
わたしの前の席で頬杖をつきながらわたしの話を聞いてくれてるのは小川美尋さん。
なかなかにズケズケとものを言う彼女はわたしの最も仲の良い友達だ。
ちなみに彼女は伊織くんのファンである。
…伊織くんは渡さないけどね!




「うち思ったんだけど」
「うん」
「真北さんはさ、マネージャーしたいんじゃなくてレギュラーの人達と仲良くしたいんだと思うよ」
「え」



熱心な美尋信者であるわたしは知っていた。
この顔の美尋さんは間違ったことを言わない。
そんな確信に満ち溢れた顔をしている。




「逆ハーレム的なことしたいんでしょ、多分」
「…まじかー…」
「うん、残念だったね」
「いや、逆に最高じゃん!」
「え、なにが?」
「だってレギュラーに今めっちゃ好かれてるからさ、そのまま仲良くなってそしたらわたしいらないじゃん!」
「…ああ」
「今の時点でもうすでにいらない子っぽいけど!あ、ここ笑いどころだよ!」








「…あ、時間ね」
「そうだね、ドリンクちゃんと冷えてるかなー」



放課後の部活。
美尋さんの言ったことを信じることにしたわたしはドリンクを冷蔵庫まで取りに行こうとする真北さんの後ろについて行った。
そしてレギュラー分、その他の選手分、と分けられたトレイのその他の分を取る。
レギュラー分と比べるとやっぱりものすごく重い。
まあいいさ!



「じゃあわたしは向こういってくるからそっちはよろしくね!」
「え、ええ」
「後レギュラー分のタオルとその回収もお願いできるかな?」
「大丈夫よ」
「そしたらやる事ないからさ、見学しててもいいよ!」
「わかったわ」




嘘である。
やる事なんて尽きた事はないけれど、もともと一人でやっていたようなものだから手伝ってもらわないと終わらないわけではないし、このまま真北さんには彩音ちゃんポジションを獲得してもらわなくちゃいけない。



そのためなら何だってしてやるさ…!





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