「じゃあ逸月はここで座ってみていてくれるかな」
「ええ、わかったわ」



コート傍のベンチに転入生を座らせてすぐに練習に入った。
それでも休憩時間になるとベンチに駆け寄ってわちゃわちゃと話している。
…彩音ちゃん再来?
切り替え早くない?


まあ未来のマネさんだからね。
今から印象良くしといて損はないでしょ。



「あつくない?ドリンクいる?」
「…」
「逸月!ちゃんと見てろよ!」
「ええ、わかってるわ」



え、無視?
聞こえなかったんだよね?



「お、置いておくね?」
「…」



ちら、と見られたのに何も言われなかった。
気付かれてるはずだけど…。
あ、人見知り?
緊張してんのかな!?
多分そうだよね…




そそくさと退散して部室で掃除を始めたわたしは転入生がこっちを見ていたなんて知らなかった。

わたしチキンハートだからさ、もう挫けそうなんだけど。
つか人見知りとかあり得ないでしょ。
今日転入してきたんだよ?
それであそこまであのテニス部と仲良くなっててさーわたしみたいな凡人は緊張するなんてそんな事あり得るはずがない。


しかしわたしはひらめいてしまった。


わたしと仲良くする気は無いって事はわたしいなくなってもいいってことじゃない!?

すごい今までにないチャンスきてるよねこれ。


思わず鼻歌もしてしまうって!




「…楽しそうですね」
「や、柳生先輩…」
「いえ、続けてください…」
「…はい」



おずおずともう一回始めた鼻歌は今にも消えそうだった。






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