「…」
「皆さーん!ドリンク持ってきましたよー!」
「お!さっすが彩音!」
「彩音ーもー俺へとへとだわ」
「ありがとう、彩音」
「ありがとうございます」


彩音ちゃんが話している間にこっそりボトルを回収したり




「ひー、やあっと練習終わったー」
「腹減ったぜぃ…」
「俺も…」



皆が部屋に戻る中一人でコート片付けしたり




「ご飯できたんで皆さん集まって下さーい!」
「すげー!うまそう!」
「ほんとじゃな、彩音はいい嫁になるんじゃなか?」
「え?あの、これは…」
「む、よくできているではないか」


ほぼ一人でご飯作ってその後も皿洗いしたり




ぶっちゃけ涙出てきた。
辞めるためとはいえわたし報われなさすぎでしょ。
彩音ちゃんが仕事をしない、…できない?のはわかってたけどこれじゃあ一人でやってるのと変わらない。
すれ違ったときに挨拶しても返してくれないような人達に料理までつくって、わたしは奴隷か。


明日の朝もご飯を作らなきゃいけない。
やる事は終えたしテニス部の人達と楽しくお喋りとかするわけないし寝たいし!もうベッドに入っちゃおう。



「おやすみ、」
「あ、悠ちゃん…」
「………ん?」
「ご、ごめんね、なんでもないの」
「そっか、じゃあおやすみ」
「ねえ、ブン太先輩のお部屋に行くんだけど悠ちゃんも…行かない?」
「あー…ごめんね、行かないや」
「…そっか!」



キョロキョロ部屋を見回してそわそわしながら恐る恐るわたしに話しかける彩音ちゃん。
ごめんね本当にもう寝かしてくれないかな。
ただでさえ体力ないわたしが今日は一日割と頑張ったし何よりこう、あれだよ、精神的疲労?それを寝る事により発散したいんだ。

でもやっぱ伊織くんにメールしよう。

そうだ、だっていつもならこの時間はまだ伊織くんとお話してるもん。



「彩音ーー!遅いから迎えにきたぜい!」
「ぶ、ブン太先輩…!悠ちゃん寝てるので…しーっ!です!」
「え?あ、寝てんの?」
「(しゅん)そうなんです…お喋りしたかったんですけど…」
「ふーん、ノリ悪いな」



それより幸村くんたちも待ってんだ、早く行こうぜぃ!とぱたぱた駆けて去って行く二人をわたしはベッドの中で見送った。
すいませんねノリ悪くて。
がちゃ、とドアがしまった音がした途端飛び起きて携帯を探す。



「あ、伊織くんー…」
「悠、どうだった?」
「…伊織くんー…」
「…帰ってきたら悠の好きなタルト買っておくからね?もう少しだけ頑張れ」



いつもは爽やかな顔して毒を吐く伊織くんだけどこうして甘やかしてくれる時も多い。
だから兄離れできないんだ。
抱きついても受け止めてくれるしね。

布団に潜ってお話ししているうちに伊織くんの低くて優しい落ち着く声と疲れも合間って眠くなってしまった。



「うん、」 
「悠、眠いだろ?」



くす、と笑いながら聞いてくるのでううん、と答えるとまた伊織くんはすこし笑った。



「はは、いいよ、おやすみ。」
「んー…やだ…」
「眠そうな悠も可愛いけど…明日も早いんだから寝なさい」
「うーん…」


寝なさい、と言う割に電話を切らない伊織くん。
ついに電話をつないだままわたしの意識は途切れた。








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