「意外に早く着きましたね!」
「そうだね、皆、降りるよ」






部長がそう言うと皆さっとバスから降りて行った。
わたしは点検ついでに最後尾にいたのだけれど、なんというかお菓子のゴミが多い。
犯人の目星はついている。
自分のゴミくらい自分で片付けてくださいよー…
きっと面と向かって言えるようになる日は来ないけど。








「ありがとうございました」
「こっちこそありがとうねえ、ゴミ拾ってくれて」
「いえ、私達が汚してしまったので」








運転手のおじいさんはとても朗らかな人で笑いながらまた帰りになー、と言ってくれた。
よかった、早く降りろばか!とか怒られなくて。


もちろん皆さんが気を利かせて荷物を持って行ってくれているなんて事はあるわけなくて。
自分の荷物+用具をまたこれから部屋まで運ばなくてはならない。






「お嬢ちゃん!忘れ物があったよ!」
「え!ありがとうございます」
「いいんだよいいんだよ、気をつけなさいよ」
「はい」






おじいさんに渡されたのは腕時計で。
何でバスに置き忘れた。
腕につけとけばいいのに!
だから腕時計っていうのに!






必死の思いでホールまで行くと何故か皆集まっていた。
え、話し合ってる?
やばいやばいと急ごうとすると柳生先輩が私に気がついて駆け寄って来てくれた。






「すみません、気が付かず。持ちますよ」
「いえ、大丈夫です」






流石紳士。
でも…そこで先輩達と楽しそうに話してる彩音ちゃんも来てもいいんじゃないかな、とか思ってみたり。






「マネージャー、遅かったね」






なるべく早く歩いて集まっているところに行くと部長に言われた。
ここは素直に謝っておかなくちゃ






「すいませんでした」
「いや、次からは…その手に持ってるのは何だい?」
「あ、これは…」
「俺の腕時計じゃん!何で持ってんだよ!?」








バスに落ちていて、と言おうとしたら切原くんがずかずか歩いて来て私から腕時計をもぎとった。
多分勘違いされてる。
だって睨まれてるもん。






「悠ちゃん…?」






彩音ちゃんも何でそんな疑うような声出すの。
あり得ないでしょ。
ここまで信用されてなかったんだ。






「…赤也がバスに腕時計を忘れた確率99.8%」
「…柳」
「私からも言わせていただきますが、神田さんはゴミの入ったビニール袋をお持ちです。きっとバスの点検をされていた途中で見つけたのではないでしょうか?」








腕時計をじっと見つめて、?、と呻く切原くん。
他の人はもちろんわたしも何も言えなかった。
わたしが今何を言っても言い訳にしかならないから。
彩音ちゃんは部長に肩を抱かれてわたしたちの様子を伺っている。








「…忘れ物をするなど、たるんどるぞ赤也!!」


「ひっ!すいません副部長ー!」








いつもは怖いだけの副部長も、今回は空気を読んだ(読めないからこそ読んだことになった?)。
全くお前は…!と説教を続ける副部長に続いて皆が動き始めた。




…疑われた謝罪とか無いのか




褒められようとしたわけじゃないけど、仕事全部一人でしたのに。
運ぶのは手伝ってもらったけど。








「災難だったな」
「…はい」






手伝ってくれる柳先輩もわたしが少し傷付いているのを悟ったのか、気を使ってくれた。
引き続き手伝ってくれる柳生先輩。
申し訳ないなあ。






「すみません、気分を害してしまって」
「柳生先輩のせいじゃないです。それよりも、ありがとうございます」
「いえ、当然のことをしたまでですから。あなたがテニス部のためにずっと頑張ってきてくれた事、わたしは知っていますから」










紳士株、急上昇。
とかいって。











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