「…んー…」




ごん!






「あだっ!…えー…」








バスが急カーブしたため寝ていた私の体は遠心力に逆らうこともせず思いっきり窓に頭を打ち付けた。
ぶつけたところを摩りながらうっすらと目を開ける。
普通に痛かった。








「…大丈夫か?」
「あ、はい大丈夫です」






隣にはペンを片手にわたしにそう聞いてくる柳さんがいた。
何を書き込んでいるのかは聞かない。


…え?






柳先輩ってわたしの隣に座ってたっけ?
多分わたしの隣にはわたしのリュックが踏ん反り返っていたと思うんだけど。






「わたしのリュックはどこ、とお前は思う」
「…さすがです…」






まあな、とまた何かをノートに書き込む柳先輩はついにリュックの行方を教えてくれることは無かった。
でも座席の上の荷物置きからリュックの紐のようなものが垂れ下がっているので多分あそこにある。








「それより」
「?」
「額、赤くなっているが」






さら、と柳先輩がわたしの額にかかっている髪をかき分けた。
そのまま長い人差し指の背で軽く撫でられる。
柳先輩指先冷たい。
すごい音がしていたな。と思い出したのか笑い始める柳先輩にわたしは一部始終を見られていたことを知る。






「目が覚める位には痛かったです」
「そうか、見せてみろ」






柳先輩が上体を乗り出してわたしに近づく。
腫れてはいないが、やはり赤いな、とまた優しく撫でられた。
この程度ならすぐに元に戻るだろう、と言われたので安心した。
柳先輩が言うなら間違いないよ。




ここでわたしは何を思ったのか徐に携帯を見てしまった。






from:伊織くん
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寝顔撮られるって少し油断しすぎてない?
外には危険がたくさんあるんだよって言ったよね?
だいたい柳はいいよって言ったけど隣に寝るってどうなの?
お兄ちゃんは悠が心配です












非常に面倒くさいメールが入っていた。
最後に付け加えるように書いてあった寝顔可愛かったよの言葉に柳先輩を見ればしらばっくれられたので逆に犯人が柳先輩であるとわかってしまった。


伊織くんはこういう時はとても面倒くさくて何を言っても無駄なのでとりあえず家に帰ったら夕食はコロッケがいいな、とだけ返信しておいた。
やはり瞬時に返信が帰って来て今から下拵えを始めると書いてあった。
早すぎる。
隣の柳先輩は神田はコロッケが好きなのか、と呟いていた。
別に好きではない。




はやく合宿所に着いて欲しい。
そしてはやく自分の部屋のベッドで眠りにつきたい。









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