休み時間にいちいち部室まで降りてぼ取るを全て洗い終えたわたしは誰にも気づかれる事なく昼練分のドリンクを作る事に成功した。
ジャグはもう既に用意してある。

そして迎えた昼練。
彩音ちゃんがドリンクを配りに行ってそれを皆飲んでいる。
昼休みは大体放課後の準備をするか、部室の掃除をするかしかない。
朝練と比べれば時間はあるものの、放課後にまだ練習が残っているので、球出しなどの練習はしない。
軽くゲーム形式に打って、それ次第で放課後の練習メニューの参考にする。
だから昼休みは一番緩くテニスをできる時間らしい。
放課後練は私語厳禁な空気だけど昼練は皆楽しくお話しながらやってるし、レギュラーの人たちが時々一年生のところに乱入したりしてわいわいダブルスをしたりしてる。

王者立海のテニス部はこれだから人気なんだ。
楽しくも厳しくテニスをみんなで極める、そんなスタンスがここにいる皆気にいって入部する。





「あ、神田」
「部長」
「頼みたいことがあるんだけど…」
「はい、大事ですよ」


「実は倉庫から持ってきてほしいものがあって」 



紙に書いといたから、と手渡ししてくれた紙を見るとなかなかの量だった。
これは…大変だ。
悪いね、それじゃあ、と部室から出て行った部長は多分わたし一人でこれをやれと言ったんだと思う。


早く取りにいかなくちゃ、と部室から出たわたしの目に飛び込んできたのは彩音ちゃんと切原くんであそぶ部長で。
それはもうきらっきらな笑顔でした。
部長は懐に入ってきた人には甘い節がある。
テニス部の中でも、それは極一部だ。
レギュラーの人達と、彩音ちゃん。
その人達に見せる笑顔はもうなんて言うかさすが神の子としか言いようがないと言うか。
とにかくそんな顔だ。

…一時期はそこに入れていたかも、なんて自惚れた時期もあったけど、今はそんな事思う余地もないほどに部長は態度に表している。




「あ、神田」
「はい」
「なるべるはやく持ってきてくれるかな」
「あ、悠ちゃん、わたしも…」
「彩音はいいよ」
「でも…」
「彼女一人で十分足りる量だからさ」



ね?とこっちを見る部長に何か言えるわけもなくはい、とだけ答える。
ボールカゴ二つにコーン六個ってなかなか重いと思います。






「神田」
「はい?」
「…精市の事は、まあ、あいつは気にしないでやってくれ」



柳先輩に労わる様に言われたけどもともとそこまで気にしてません。
言わずとも伝わったのか…そうか、とだけ呟いてノートに何かを書き込む柳先輩は難しそうな顔をしていた。
でも心なしか笑いそうだった。






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