「悠ちゃん、ごめんね今日も…」
「ううん大丈夫だよ」



時間通りに来れるとは思ってなかったから。
そんな事口が裂けても言えない。
安心させるように笑って言うとこれまた可愛らしい笑顔で彩音ちゃんは笑った。




「これから頑張るよ!あ、このドリンク持って行けばいいのかな!?」
「あ、それは昼練の時の…」
「よし、わたし頑張るからね!」



制止の声も聞かずにドリンクのカゴを持って部室から走り出て行く彩音ちゃんをついに止めることはできなかった。

…やばい!

昼練のドリンクがなくなる!
レギュラーの人達はなんのこだわりかわからないけど皆自分専用のボトルを持ってきている。
これは何代も前から続いているらしい。
レギュラーだけが自分用ボトルで飲んで良いという。
他の人はまとめておいてあるコップにジャグから飲み物を注いで飲んでいる状況の中で特別を感じさせるそれは男子テニス部なら一度は夢見るものらしい。
わたしから言わせれば一気に混ぜて終わるはずのものが一人分ずつ作らなければいけなくなるので面倒以外の何物でも無い。

そしてその個人用のボトルは一人一本ずつしかないのだ。




昼の分が作れない…!




皆が飲んで、ボトルが返ってくるのがどんなに早くても十分後。
朝練が終わるのは、十五分後。
五分でレギュラー分のドリンクを作るとか無理だ。
片付けもしなきゃいけないし教室に行くまでの時間も考えなければならない。

死亡フラグ立ちましたねこれは。
乱立してる。





「みなさん!ドリンク持ってきました!」
「お、いつもは朝練の時ドリンクねえのに…気が利くんだな彩音!」
「そうなんですか?」
「そうだよぃ!彩音はよく働いてんだな!」




聞こえるよ声が。
丸井先輩だ、この声は。



「わたしよりも悠ちゃんの方が頑張ってるんですよー!」
「そうかあ?でも彩音もこれ作ったり頑張ってんだろい?」
「え?これ作ったのは…」
「俺も手伝ってやるから早く持って行こうぜい!」




丸井先輩はわたしが最も苦労している裏工作に、一番ひっかかっている人だ。
すべての仕事を彩音ちゃんがやったと思っている。
もっとその声大きく言ってください。
そして彩音は一人でも大丈夫だろい?ってその甘い声で言ってください。




「しっかし彩音も大変だよなー」
「どうしてですか?」
「こんなの毎日やってんだろ?」



俺なら即効飽きてるぜ!という笑い声が徐々に遠ざかって行く。




お昼本当にどうしよう…
朝練終わりに帰ってきたボトルを休み時間とかにちまちま洗っておくしかないかな…
超めんどくさいんですけど…!

でも怒られるのはいつも私だし…
主に副部長にだけど。

怒られるのはやだしドリンク無しで部活させるのも忍びないから今日は頑張らなくちゃなあ。










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