朝練が始まり、パコンパコンとボールを打つ音がしているのを聞きながらわたしは昼と放課後の分のドリンクの準備を始める。
朝練の時は休憩に何かを出すことはないので基本マネージャーは昼と放課後の分の準備をしている。





「ご、ごめんなさい…また遅刻しちゃいました…!」
「む、しかし朝練の時間に間に合ったのだな」
「おはよう彩音」
「ごめんなさい…」
「いや、お前の頑張りは伝わっている」




…わたしにはいつもより少し遅れただけで怒る副部長も彩音ちゃんには甘い。
くそお、これが贔屓って奴か。



「…神田」
「あ、柳先輩」
「少し喉が乾いてしまってな、ドリンクはあるだろうか」
「あ、はい、今お出ししますね」



あれ珍しい。
昼のために作っておいたドリンクを柳先輩に渡す。
ありがとう、と言って飲み出す先輩をひとしきり眺めた後また自分の仕事に戻ろうとする。
…あれ?




「あ!柳先輩ここにいたんすか!」



物陰からひょこ、と出てきて俺と試合してくださいよー!と言うのはおなじ学年の切原くんだ。
はやくはやく、と急かす切原くんにこれを飲み終わったらな、とゆったり返す柳先輩はここでは見慣れた光景で。




「赤也も飲んだらどうだ」
「…いいっス、早く行きましょうよ!」



わたしのことを睨んでくる切原くんにも慣れた。
なぜかわたしはこの人に嫌われている。
中学の最初の頃はそんなことなかったような…
あんまり覚えてはいないけど。
柳先輩と話してる時にたたたっと走ってきて柳先輩を誘ってテニスしに行く、というのがいつものパターンだ。
はいはい柳先輩が好きなのね。
よくわかるよその気持ちは。




「神田、ありがとう」
「はい」
「…」



ボトルを渡されてお礼を言われると待てを解かれた犬のように柳先輩の腕を引っ張ってコートまで連れて行く切原くんは時々犬っぽく見える
わたしに対しては野性のオオカミっぽい。
主に目つきが。




クラスメートと話している時はいつも中心にいて楽しそうに話しているけど、男テニの人と一緒にいるところをあんまり見たことがない気がする。
先生からもよくからかわれていてとにかく英語の発音が悪い。
多分切原くんってこんな感じ。
まあクラスが一緒だから目にはいる的な。



とにかくわたしは好かれてはいないようです。
ああ傷つくなあ。






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