「…ふぁー…」
「仁王くんおはようございます」
「おはようさん」



だるそうに歩いて来る仁王先輩はなんだかんだでいつも柳生先輩の次に来るのが速い。
軽く体操をしてから柳生先輩と打ち始める仁王先輩もやっぱりテニスを一生懸命やってるんだなあ。


仁王先輩はクラスでの噂を聞くと女遊びがひどいだとか口説き落としまくってそろそろ三桁目に突入しそうだとかそういう話ばかりだ。
まああの風貌じゃ仕方ないけど。
でも部活をしてる先輩はそんな噂嘘でしょ、と疑いたくなる位にテニスに励んでいるように見える。
中学の時に部長が「仁王は集中してる時はすごいんだけどね…オンオフがはっきりしすぎているからなあ…」と苦笑いしていた。
ちなみにオンの時はしっかりテニスをするけどふいにオフに切り替わった途端サボりに行ってしまうらしい。
わかりやすすぎる。
そして気まぐれすぎる。
猫かあの人は。



そしてわたしから見れば仁王先輩は不思議すぎる。
さっきまでテニスしていたかと思えば彩音ちゃんにべったりくっついて絡んでいたりかと思えば彩音ちゃんやそこに集まっている人たちに見向きもせずに他の人と遊んでいたり、ぼーっとしていたり、時々何かあるのかこっちをじーっと見つめていたり。
もう気にしてはいないけど、マネージャーを始めた最初の頃は何かやらかしてしまったんだろうかと不安になったものだ。
今ならわかる。
多分あの人の行動にほとんど意味はないんだ。
そうに違いない。





「神田」

「あ、柳先輩、おはようございます」
「ああおはよう」



今日は仁王の方が早かったか、と呟く柳先輩に五分くらい仁王先輩が早かったですねと返すとそうか、と頭を撫でられた。



「今日も早くからご苦労様」
「いえ、大丈夫ですよ」
「なんじゃ参謀、来てたんか」
「ああ仁王、柳生、おはよう」



柳先輩を見つけてこっちによってくる先輩達。
今日は俺の勝ちじゃな、と仁王先輩が言うと柳先輩が冷静に競っているわけじゃないだろう、と返す。
あまりイメージがわかなかったけどこの二人は大分仲が良い。




「…仁王」
「なんじゃ?」



ふう、と柳先輩が珍しくため息を吐いた。
それにむすっとした表情で仁王先輩が参謀、と呼ぶと柳生先輩が口元に手を当てて面白そうにくすくす笑う。
どうして笑ってるのかも何が面白いのかもわからないけど楽しそうだ。




「わたし部室に戻りますね」




さて、もうすぐ朝練が始まる。








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