Only a few does not arrive.






マネージャーさんから電話を切ったすぐ後、マネージャーさんから届いたメールには蔵ノ介の入院している病院と部屋の番号が書いてあった。


それに感謝しつつ、マンションの近くのコンビニの前も、いつもは思わず足を止めてしまう桜の咲き誇る公園にも足を止めず走って、走って、走って。


流石にコートも来て来ないのは寒いかなと思ったけど全然そんなことなかった。
むしろシフォン生地のスカートをやめればよかった、と本気で後悔した。







ようやく着いた目的の部屋の前で息を整える。
意を決して扉に手をかけようとした時





「藍さん…?」
「あ、マネージャーさん…」



花瓶の水を入れ替えていたと思われるマネージャーさんに見つかった。
あんなにきっぱりと断っておいて今更来るなんて…
いたたまれなくなってスカートの裾を握る。
しかし予想とは裏腹にマネージャーさんは笑ってくれた。



「来てくれたんですね」
「…」
「ありがとうございます。さあ、」



丁寧にドアを開けてくれる。
小さく会釈して恐る恐る入った。






上体を起こして窓の外を見ている蔵ノ介が、最後に見た時よりも細くて、白かった。

窓を開けているのか流れ込んで来る風が蔵ノ介の髪を撫でるその様はなんだかとても儚くて。




「白石」
「ん、おおきにな、マネージャー」




こちらを見ない蔵ノ介は私のことを気付いていない。
わたしから、何か言わなくちゃ。
意味もなく流れてきそうな涙を我慢し、一歩、蔵ノ介に近づく。






「蔵ノ介…」

「……、名前…?」




ゆっくりとわたしの方を見た蔵ノ介の目が大きく開かれる。
一歩、また一歩と近づき、蔵ノ介から窓を遮るような位置に立った。
足を折って膝立ちになり、蔵ノ介の右手をそっと触る。




「…ほんまに、藍…?」
「うん、そうだよ」

「…っ…藍…!」



わたしの頬を確かめるように撫でて悲痛そうに名前を何回も呼ぶ蔵ノ介。


そんなに何回も呼ばなくてもわたしはここにいるよ




「蔵ノ介、わたし、聞きたいことがあってね」




そう切り出そうとした時







「こんにちはー…」




病室の扉から顔をのぞかせたのは




「後藤さん…」






「…あっ彼女さん…」



驚いたように口元に手を当てる後藤ユキちゃん。
驚いたのはわたしだけではないようで、マネージャーさんも固まっている。





わたしはここにきたことを死ぬほど後悔した。




なんだ、本当に勘違いだったじゃないか


蔵ノ介はこの子と…って、わかってたから身を引いたのに





わたしはなんて愚かなんだろう





頭が急に冷えて行くような感覚だった。
ばっ!と立ち上がって病室から走って逃げ出す。
我慢していた涙も、今だけは耐えきれなくてぼろぼろと零れ落ちて行った。





「…っ!」
「藍!?…待ってくれ!藍!!」



「白石!?」











施設内で走らないでください!と注意を受けながらも走り続け、やっと病院から出る。






流石に走りつかれて病院の庭で足を止める。











ふと見上げると悲しいほど綺麗に桜の花びらが舞い散っていた。











20130303
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