The crevice which is not filled









白石さんが倒れた。






原因は過労と栄養失調だそうだ。
先日楽屋で倒れて、救急車で運ばれて今は近くの総合病院で寝ているそうだ。
都合よくしごとが休みだった私はタクシーを大急ぎで拾って病院に向かった。
病院に着いてからは走ってロビーに向かい、待っていてくれているマネージャーさんを探す。



「後藤さん!」
「あ…!白石さんは、白石さんは今は大丈夫なんですか?!」
「はい、少し調子を見るために入院させますが、そこまでの大事ではありません」



順調に回復して行ってますよ、と微笑むマネージャーさんによかった、と胸を撫で下ろす。
久しぶりに全力で走ったせいで上下している肩を落ち着けてから病室に入る。
静かに寝ている白石さんは、綺麗だった白い肌が不健康そうに少し青白くなっていた。




「…白石さん…」
「……藍…」
「!」




寝ているのに彼女さんの名前を口に出す白石さん。
びっくりして白石さんの頬に伸ばそうとしたてを引っ込めた。
そういえば、どうして私の事を呼んだんだろう。




「先日、白石の着替えを取りに行くために白石の自宅へ行きました。そうしたらテーブルの下に後藤さんとの写真が落ちていまして…」




失礼ながら聞かせていただきますが、後藤さんはうちの白石と付き合っていらっしゃるのですか?


銀のフチの眼鏡越しにまっすぐ聞いて来る白石さんのマネージャーさん。
あ、とかすれた声しか出ないわたしは答えられずにいた。
付き合ってなんか、ない。
でも…ここで言ってしまえば…もしかしたら…





「付き合ってへん」
「!」
「白石!起きたのか」

「おん、俺と後藤さんは付き合ってへんよ。後藤さんは好きな人がおるんや。変な誤解したらあかんで」
「しかし、お前の部屋には写真が…」
「なんの?」
「お前と、後藤さんのツーショットだ」
「…んー、身に覚えはないんやけど…なんであったんやろな」




上体を起こして、私と目を合わせずにマネージャーと話している白石さん。
元気のないその声や姿にツキン、と胸が痛くなった。



はじめて、罪悪感を、感じた。






「それはそうと白石…お前、藍さんは…」
「はは、それ聞くか?…藍な、出て行ったんよ」
「…」
「俺が嫌になったんやろか、不甲斐なかったんやろか…」




俯いて左手で顔を隠し、藍、とまた呟く白石さんに、わたしは我慢できなくなった。
だって、私が原因で白石さんはここまで苦しんでいるんじゃない。





「白石…」
「ごめんなさい!全部私のせいなんです!」



ぶわ、と出てきそうな涙を堪えて今までやってきたことをすべて話した。
最初は驚いた顔をしてわたしの事をみていた白石さんは徐々に真剣な顔になって行った。

ごめんなさい


ごめんなさい




「写真も、わたしが白石さんの家に送ったんです」




わたしが全部いけなかったの。




「手紙もつけたし、面と向かって別れてって言いに行ったりもしました」




白石さんと彼女さんは愛し合っていたのに





「はやく彼女さんと別れてくれればいいって、わたしと付き合ってくれればいいのにって…!」





邪魔をしていたのは明らかにわたしなの






だから、いっそ思いっきり責めて


責めて、責めて、わたしの事を大嫌いになって





こんなにも辛そうなあなたをもう見ていたくないの






「本当にごめんなさい…!」




最後の謝罪で、ついに耐えきれなくなった涙が零れ落ちた。

思いっきり頭を下げて何回も涙を隠して謝る。
泣くなんてずるい。
わたしが泣くなんておかしい。
泣くほどに辛い思いをさせたのがわたしで、本当に泣いていいのは白石さんと彼女さんなんだから。











「…そか…俺は藍を不安にさせとったんやなぁ…」








ぽつり

一言だけ呟いた白石さんの言葉はわたしを責めるものではなかった。




「ちがっ…!」
「ごめんなあ、後藤さんも。俺が気付かなかったから辛かったやろ?」




そんなに泣かなくてもええんやで、わかったから



少しだけ笑って言う白石さんの顔は、やっぱりわたしが好きになったあの笑顔じゃなかった。







「ごめん…なさいっ…!」
「だから、ええって」
「…」











20130302




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