A blindness girl
あの人に憧れて入ったこの世界。
ミーハーだって言われても良い。
共演して、可愛がってもらえているうちになんとかわたしを好きになってもらうはずだったのに。
大好きなあの人にはもうたった一つの存在がいた。
それでも押し切るつもりだった。
例えあっちがわたしを恋愛感情で見ていない、という事を悪気もなくばっさり言おうとめげないで何回も何回も話しかけに行った。
少しでも意識してもらえるようにわざと外で手を繋いでみたり、白石さんがコンビニに行く、と言えば自分もついて行ったり。
手はすぐに振り切るように解かれてしまったものの、近くにいてもしゃあない子やなあ、と笑ってくれる白石さんがどうしようもなく好きだった。
手を繋いだ所をスクープされたのはよそうがいだったけど、これを真実にしてしまえばいいと逆に嬉しくもなった。
ここからが勝負だ、と意気込んだ。
好きで好きで潰れそうになって、白石さんが仕事の時間を見計らって事前に調べておいた白石さんの自宅に押しかけた。
目的はただ一つ。
白石さんの彼女に会うために。
いざインターホンを押して、出てきた女の人は落ち着いた大人の女性で、だから負けないようにムキになったのかもしれない。
「私達の、邪魔をしないでください…!」
ぽろぽろと涙を流して必死に訴えかければ彼女さんは何とも言えないような顔をしていた。
今考えれば邪魔をしているのは私の方なのに。
その時は本当に白石さんの事しか考えられなくて、自分の家に帰ってからも自分が行った行動よりも蔵ノ介さんって読んだ事に対しての嬉しさや恥ずかしさでベッド脇に置いてあるマクラを抱きしめていた。
少し時が開いて、白石さんが嬉しそうにはにかみながら
「俺、近いうちに彼女にプロポーズするわ」
と言ってきた。
後藤さんには言っとこうと思てなあー、と頭をかきながら言う白石さんを見て、とてつもなく焦った。
何か行動を起こさなくちゃ。
本当に白石さんが手の届かない人になってしまう。
ふと共演者の方に貰った白石さんとの写真を思い出して、それを白石さんの家のポストに入れた。
写真の裏と紙にがつがつと文字を書いて。
バラす、とか別れろ、とは直接は書かなかったが、そう言う意図で書いてある事は誰の目から見ても明らかであるような文で。
普通ならやめようか、と思うのにそんな思考は少しも働かなかった。
罪悪感は、無かった。
それからまた少し時が経って、白石さんは明らかに無理をするようになった。
目の下には薄っすらと黒い隈が見えるし、以前は健康に気をつけている、とバランスよくとっていた食事が現場で野菜ジュースの紙パックを一本飲むだけになっていた。
話しかけても上の空で、思い詰めたような顔をする事が大半だった。
周りの共演者もスタッフさんも誰もが彼を心配していた。
普段人当たりが良く、誰からも好かれていた彼がこんな状態なのだから無理はないと思う。
それでも仕事に差し支える事は一度もなくて、誰かが「辛い事があってもそれを隠して仕事を続けるなんてプロだねえ」と感心したように言っていたけど、違う、と何となく思った。
きっと、白石さんは仕事で何かを誤魔化しているんだ。
そして、それは彼女さんのことに違いない。
だからわたしはまず話を伺いに行った。
でも返ってきたのは困ったような笑顔で
「何にもあらへんて。おおきにな」
という、優しい拒絶だった。
それでもずっと近くにいた。
お弁当を作って待って行ったり、メールもしてみたり。
最初はおおきに、と食べてくれていたお弁当もいつしかお昼休憩になったら白石さんはふらりと何処かに消えてしまうようになって渡すことすら出来なくなり、メールは返信してくれることがなくなった。
不安を感じていた矢先に、白石さんのマネージャーさんから電話が入った。
20130302
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