It was wishing. It had not got.





持てるだけの自分の荷物を持って部屋を出たのが二ヶ月前。
幸いな事にすぐに住むところが見つかって、大学からそう遠くない格安アパートに住む事になった。
二人で住んでいたのはそんなに長くないはずなのに、違和感が無くならない。
わたしはあまり好きじゃないアールグレイの茶葉も常に置いてあるあたり、未練タラタラじゃないか、と苦笑するしかない。
蔵ノ介がここにくる事を暗に望んでいるようで。
ばかみたい。


きっと蔵ノ介は後藤ユキちゃんと仲睦まじくやってるんじゃないのかな。
そうでなければわたしが行動した意味だし。
幸せに、なってもらわないと。


それでもわたしはまだ好きだから、前に進めそうにない。
会えなくて良い。
蔵ノ介をテレビで見て、最近の彼を見れるだけでいいじゃない。
また戻ってきてくれるだなんて思っちゃいけないの。



だから、このリングもはやく手放さなくちゃいけないはずなのに。


鈍く光を反射する銀色の輪をどうしても捨てられない。
捨てたい?捨てたいはずがない、捨てなきゃ、でもこれは、これは?お揃いで買った、お揃い?

蔵ノ介は身につけてもいないのに?








『白石さんは、これがファーストシングルだそうで』
『そうなんです。あ、カップリングの方は作詞もやらせていただきました』
『そうなんですか!それではご自分で曲名をどうぞ』




ある音楽番組に出ている蔵ノ介。
はっと顔をあげて見てしまう。
作詞…?
なんだか痩せた気がする。
それなのに作詞なんて、ちゃんと寝る時間はあるのだろうか。
テレビ画面に釘付けになって見る。



蔵ノ介がマイクを左手に持って微笑みながらステージに上がる。
湧き上がる黄色い歓声に手を振りかえしながらリズムを刻んでいる。


歌い始めた歌は、幸せなラブソングだった。


いっしょにいる時間が幸せ、ずっと隣に、そんな歌詞ばかり入っていた。

幸せになってと願っていたと、願えていたと思っていたのに。
蔵ノ介が主演するドラマの主題歌にもなるこの曲が、蔵ノ介が作詞したこの曲が、もう聞きたくないと思うのはきっと私だけなんじゃないかな。






そっか、蔵ノ介は幸せになったんだね。






「…っ…」







それを嬉しいとは確かに思ってるよ。


でも、まだこんなに泣けるほどに辛いんだ。









ねえ蔵ノ介


わたしはまだあなたの事が忘れられないみたいです。








20130219





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