A certain man's treasure









大切な人がいた







隣にいるだけで心地良くて、話しかけるとゆるく笑ってくれて。
その顔が見たくて作り話もした。
俺が部活をしているのを見に来てくれた時はいつも以上に真剣にやったり、休憩時間にいつもはやらないようなバカみたいなことをやってみたり。
それで彼女の方を見ると、呆れたように笑ってくれているのでさえ嬉しかった。






俺なりに大事にしていた






見た目より真面目で、授業中に黒板が見えなくて眼鏡をかけていたこと、猫とか小動物が意外と好きだけどなかなか触りにいけないこと、好きな食べ物は最後までとっておく派で、食べている時に少し目が細まるとこ。
負けず嫌いで何回もゲーセンでホッケーしたり、彼女はわりと冷めてる性格なのにプリクラを撮った時に変顔で全て撮りきったり。






彼女にはいろいろなものを与えられた






俺がスカウトされた時にも背中を押してくれたのは彼女で。
仕事がくる度に自分のことのように喜んで、帰ってくると美味しい料理をつくって待っててくれて。
頭が良く空気の読める彼女は俺がしたい事をすべてわかっていてくれて。






なのに






俺は彼女に何をしてあげられたんだろうか






いつからだ。
彼女がいるのが当たり前だと思ったのか。
もう離れていかないと思ったのか。
自分は仕事で忙しいから仕方ないと甘えていたのか。

彼女を、藍を蔑ろにして、いつの間にか前みたいに話せなくなって、覚えのないスキャンダルを報道されて。
家に帰って、藍に何か言われるのかと思ったら面倒臭かった。
藍はそんな事をいう人じゃないのに。
しばらくしてから帰って、いつも明るい部屋から明かりが見えなくて、部屋のテーブルに鍵がおいてあったところで気付いた。

藍は問い詰めたりしない
自分から身を引くような女だった。




藍が出て行った。
その事を瞬時に悟り、身体が冷えて行くのを感じた。
喉が乾いて行った。
携帯に電話しようと取り出せば、テーブルの上に藍の携帯が置いてあったのを見つけた。

探さなければ、と思った。
荷物を全て放り投げ、携帯を握りしめて走って玄関まで戻り、かかとを踏んで一刻も早く家を出ようとした時、藍が戻ってきた。
何が起きたかわかっていないような顔の藍を有無を言わさずに抱きしめて、息を吐いた。



藍の存在を再認識した瞬間だった。






20130209





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