it is set completely -- as if






また蔵ノ介の様子が変わった。


前はいきなり優しくなった。

今は前よりよそよそしくなった。















よそよそしい、遠慮してる、のにわたしを気遣うようなことばかり言う。
外に出かける時も楽しそうに手を繋いでくれて、話したいことを話してくれて、そしてわたしが話す時の続きの促し方もただ聞いている、というわけじゃなくて興味深そうに聞いてくれていた。
なのに、今は?
沈黙に時間ができないように必死になって話題を探してる。
話しかけるとどこか影の潜む表情で眉を下げながら応える。
一緒にいる時間が苦痛になってきたの?
でもそれなのにわたしを一人では出歩かせてくれない。
どこに、誰と、何をしに行くのか聞き出すまで許可を出さない。
まるで親のようだと笑うと、心配してるんやで、と返されたけど、それは本当に心配しているからなの?
毎日が何だか窮屈で、テレビを見て気を紛らわせようとするけれど、また蔵ノ介と後藤ユキとの報道が目に入ってしまったら、と思うとリモコンを握ったまま止まってしまう。




そんな毎日に、崩れる日が来る事が何と無く分かっていた。


郵便受けを確認すると、一つだけ便箋が入っていた。
紺色の、可愛らしい便箋が。
蔵ノ介へのファンレターがここに届くわけはないし、宛先が書いてない。
何の気もなしにぺり、と開けてしまった。



「…え…」



わたしと蔵ノ介が手を繋いで歩いている写真の裏に、まだ別れてないんですか、と少し丸みを帯びた文字で書いてあった。
もう一枚入っていた手紙には、わかっていただけていると思っていました、でも違ったんですね、





「わたしは本気で蔵ノ介さんを思っています、か…」



多分、後藤ユキだろう。
写真を戻そうとするとまだ中にもう一枚紙が入っていることに気づく。
嫌な予感はしながらも、見ないという選択肢はないわけで。




「!」




蔵ノ介と後藤ユキが、仲良さげに写っている写真だった。
後藤ユキはすっぴんで、明らかにプライベートだとわかる。
ただ隣に座って、少し近いとは思うけど普通の距離で写っているだけの写真だ。




「蔵ノ介、指輪外してる…」



仕事中は外している指輪、でもチェーンに通して首にかけているそれが、どこにもなかった。
ラフなTシャツを着ているので、服に隠れて見えない、というわけではない。
しっかり両手が写っているので、角度的に見えなかった、と言うわけでもない。










「わ、かわいい…」
「見てみ、ペアリングや。」
「あ!本当だ!おそろいー…」
「気に入ったか?」
「うん!ずっと付けてるね!」
「絶対に外すんやないで、俺も絶対に付けとくから」
「え、大丈夫なの?仕事とか…」
「ほれ、チェーン。これに通して首にかけとけば問題ないやろ?」






ずーっと前、そんな会話をして以来二人とも一回も外したことのない指輪。
わたしはもちろん外したことはないし、蔵ノ介が出てるテレビでも時々チェーンがきら、と反射しているのを見る。
ドラマでも外さないので蔵ノ介の必須アイテムとして話題になった事すらもある。
…その時はばれないように彼女の存在を否定してたけど、今みたいに不安ではなかったなあ。




思うように動かない手で写真たちを便箋に戻す。
少し慌てて小走りになりながらリビングから自室に行きながら考える。






「(早く、早く出ていかなくちゃ)」




一枚、便箋から落ちてしまったことにも気づかずに。








20130125




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