「…あいつは…どこに行ったんだ…?」



真田くんが訳がわからない、というように呟く。
本当に、消えてしまったの…?
ぼう、と彼女がいたはずの所を眺めていると丸井くんがあれ見ろぃ、と皆に言った。



「どうしたんだい、ブン太」
「幸村くん!椅子が…」
「!」



さっき、投げられてばらばらになった筈の椅子が、元の形になって置いてあった。



「…あれ、柳さん…」
「ああ、信じられないが…俺の腕も治っている」



まじまじと自分の腕を見て触って確かめている柳さん。
…テニスは、出来そうだ。
場違いだとは思いながらも安心して息を吐くと柳さんに頭を撫でられた。




「あーあ、消えちゃったネ」
「「!」」



知らない声に振り向くと、見たことのない人が立っていた。
閉まっていた筈の扉から、音も立てずにこの教室に…?



「藍チャン」
「…な、何…?」
「キミ、もう用済みだから後一時間したら消しちゃうネ?」
「え…?」



ニコニコ笑いながらあっさりとそういわれる。
よ、用済み…?
消えるってどういうことなの?



「藍チャンはさ、あの子が傍観したいって言うから連れて来ただけなんダ。で、あの子消えちゃったカラ、キミももう元の世界に戻してアゲル。良かったネ?」



首を傾けてにっこり笑って、そのまま教室を出て行ってしまった。
慌てて教室から出て廊下を見渡しても、誰もいなかった。

…後一時間で、わたしはここから本当にいなくなるの…?
確かに元の世界に戻りたい。
でも、戻りたくない気持ちもある。
どうしよう、どうしたらいいの



「藍…」
「幸村くん、」
「どういうことか、説明してくれるかな…?」



泣きそうな顔で問い掛けて来る。
周りを見れば皆そういう顔をしていた。
…話さないわけには、いかない。
隣で肩を支えてくれた柳さんに時々言葉を入れてもらいながら、全ての事を話した。



「そんな事があったんですか…」
「じゃあ、あいつの言ってたことは本当なんすね…?」
「多分…」
「…っやだぁ!行かないで藍!」
「華央…」
「なんで!?せっかく仲良くなれたのに!」
「華央、」
「、精市はっ!悲しくないの!?なんでそんなに冷静にいられるの!?」
「冷静なわけないだろ!…でも、泣いてるだけじゃどうにもならない、」



きっと、また会えるから、とゆっくり幸村くんが華央を諭す。
いくらか落ち着いた華央は、涙を拭いてわたしの方に向きなおした。



「藍、絶対、絶対また会おうね…?」
「うん、絶対ね」
「わたしのこと、忘れないでね…?」
「うん、もちろん、忘れない」



言った瞬間、ぶわ、と涙があふれて止まらなくなった。
他の人達が次々に全国優勝するから、とかまた会おう、とか言ってくるから、余計に止まらなくて拭いながら頷くだけだった。




「皆、藍と二人にしてくれないだろうか」



柳さんが静かにそう言うと皆頷いて教室から出て行った。
扉が閉まって、完全に二人きりになると柳さんはわたしの目尻をそっと撫でてから優しく抱きしめてくれた。




「藍に、言っておきたいことがある」




20120920


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テーマ「人外ファンタジー」
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