結局、どうすれば良いの

















クラスでは華央といて、屋上にいるときは柳さんの隣においてもらう。
華央と幸村くんが付き合ってからは何かとテニス部にいることが増えたけど、前ほど嫌じゃない。
皆、生きているのがわかったから。
漫画の中みたいにテニスのことだけじゃない、みんなクラスでの顔や勉強に対する姿勢などわたしと何ら変わり無い、普通の男の子だ。
…それに、最初の頃のような剥き出しの好意を向けられることが無くなったように思う。
仁王くんなんて廊下でも抱き着いてきたりしてたけど、今は触れられても頭を撫でられる位で。
良い友人、としてお互い接しているんじゃないかと思う。





今日は昼ご飯を忘れてきたから購買で買ってから屋上に行く、と華央に告げればどこから来たのか柳さんが着いてきてくれることになって。
今日の授業はどうだったとか、テニスの調子はどうだとか他愛の無い話をしていただけだったのに。
気付けばあんなに混んでいた人混みが私たちの前だけ開けている。
ああ、それも仕方ない、慣れたくはなかったけれど、この学校でわたしはそういう存在だから。
そのわたしと立海テニス部レギュラーが一緒にいるんだ。
道も開くだろう。
何せ彼等はこの学校のアイドルだから。



「…まだ、」
「…え、…?」
「お前は…!」



はっ、と柳さんが息を飲むのが聞こえた。
目の前には忘れもしない彼女。
こっちを睨んで歯をギリギリ鳴らしている。
紅い目がわたしを見据えて逃がしてくれない。

…何この人、怖い、
怖い!
寒くなったように感じる。
足元から黒が広がって行くようだ。



「…ぁ、……」
「藍!…行くぞ、」



どうしようもなくなったとき、柳さんがわたしの肩を支えてこの場から連れ出そうとしてくれた。
…もう、黒は広がっていない。

立ち去ろうとした瞬間、ぐっ、と反対方向からすごい力で引っ張られた。
突然の事で反応できなかった。
あっという間に柳さんからはなされ、ずんずんと前に連れ込まれた空き教室に引っ張られていく。



「まだ、皆を騙しているのね?」
「!」
「とんだ喜劇ね、こんなに長く続くとは思っていなかったけど…」
「どういうこと…?」
「あなたの補正は強いってこと。でも強い割にはあんまり聞いていないようね?あなたの魅力の無さは補正じゃカバーしきれなかったのね!」



ぐり、と腕に爪を立てられて血が滲む。
…こんなの、中学生の女子が出る力じゃない…!
激痛に目をつむると彼女は次々喋りだした。



「でも傍観主もあまり面白くなかったわ、だって彼等僕のところに来てくれないんだもの」
「僕のための彼等なのに、全然思い通りになってくれない、これじゃただの役立たずよね」
「ただのキャラクターのくせに」

「キャラクターなんかじゃない!」


「あなた、傍観してたくせにそんなこともわからなかったの!?みんな、みんなキャラクターなんかじゃなかったじゃない!」



許せなかった。
まるでこの世界は自分のために作られていると言っているような彼女が。
立海のレギュラーを、生徒全員を人と思っていない彼女が。
でも、それは最初の頃の自分と同じだって気づいて、それもどうしようもなく泣きたくなった。




「人と関わる気が無い、キャラクターとしか見ないあなたなんて、世界が思い通りになるわけない!」



そう、だからわたしも、未だ帰れずにいるのだ。




「…っ黙っていれば…!本当に腹が立つ…!」



ばっ、と振りかざされた手。
平手なんかじゃない、拳だ。
この子の力の強さは知っている。
…最強設定のおかげだろう。
殴られたら腫れるくらいじゃ済まないかもしれない。
でも、反論せずに黙っているよりかはずっと良い。

歯を食いしばった。




バン!!


「藍!」







20120907




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テーマ「人外ファンタジー」
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