この幾週間、俺は彼女を見ていた。
なぜなら、気になったからだ。
勘違いしないで頂きたいがこの気持ちは一目惚れしただのという所謂恋慕の類ではない。
正直、気持ち悪かったのだ。


ノートにいつの間にか記されていた、彼女が。


俺の趣味は情報収集と言っても過言ではない。
何冊にも及ぶノートには全校生徒の基本的なデータが書いてある。
彼女もそこには記されていた。
しかしよく見てみると、そこには何の情報も書いていないのと同然だった。
つまり俺が彼女について知っているのは名前だけ。
彼女は転校してきたわけでもないのに、親しい友人もいないどころか彼女の家の場所を知っている人さえいないのだ。


そして今現在、俺を除く立海テニス部レギュラー陣は彼女に夢中である。
二言目には今日の藍が、と聞いてもいないのに言って来るのだ。
先程記したとおり、俺は彼女に苦手意識を持っており、そして彼女は俺に話しかけるようなことはしなかった。

これからも、こちらに害が無い限りは関わるつもりなどなかった。
無い、筈だった。






神田藍の事を連れ去った女の事は知っていた。
一人でいることを好むようで、静かな人物だと心得ていた。

しかし、違った。



補正、騎士、連れて来られたなど意味のわからない言葉を言ったかと思えば、次に出てきたのは俺の仲間達の名前。
聞いてしまったからには、知らない振りなど出来そうもない。
…聞いてみるしかないのだ。





「…話は大体理解した。大変な目にあったな」
「…はい」
「もし、本当だったならの話だが」
「!」



まさか、信じられるはずも無い。
非現実的にも程がある。
…口では信じていないかのような事を紡ぎ、頭ではこうわかっている筈なのに何故か本能に近い部分は何の疑いもなく『協力する』という選択肢しか出てこなかった。



「…ですよね、信じられるような話じゃありませんよね、すいませんでした」
「俺は、信じないと言った覚えはない」
「…え?」
「これからは俺を頼ってくれて構わない」



むしろ、頼って欲しいとさえ思う。
…先程言っていた補正とやらに、俺もかかってしまったのか。
しかし、俺は他の奴らとは違うところがある。
全てを知った上で、彼女が異質であると知った上で惹かれているのだ。

本能の赴くまま、神田の腰をひく。
すんなりと俺の胸に収まる神田の細さに驚愕した。
…この身体に、こんな悩みを抱えていたのか。
神田の頭に手を伸ばし、そのまま撫でてやる。



「…辛かったな」
「…っ…や、柳さ…っ」



肩を震わせている様子を見るかぎり、泣いているんだろう。
泣きたいだけ泣けば良い。
付き合ってやる。
小さく、助けてください…と嗚咽混じりに呟く神田にもちろんだ、と返すとまた泣かれた。
大丈夫だ。

俺がいるから。
俺を誰だと思っている。
お前の事くらい、守ってやるから。

その決意を胸に、神田を抱く腕に力を込めた。
きゅ、と俺の腰に遠慮がちに回された腕に不覚にも愛しさを覚えながら。




20120902

い、いきなりすぎやしませんか…!
参謀少し本能的に生き過ぎじゃないですか…!



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -