「あなたには譲らないわ」







いきなり教室に連れ込まれたと思ったらよくわからないことを言われた。
譲らない?
何のこと?



「何様のつもり?」
「え?」
「補正でもかかってるのかしら、彼等をあんな風にしちゃって。ねぇ、虚しくならない?そんな偽物の愛を注がれて。お姫様気取りか何だかわからないけど、もっと周りを良く見てみなさい。あなたの騎士達はみぃんなおかしな目をしてるわ」



腕を掴んだまま急にぺらぺらと言葉を連ねはじめた彼女に寒気がした。
補正とか、お姫様気取りとか、騎士とかは意味わからないけれど、「偽物の愛」には思わせるものがあった。
ここに来てから、話したこともない人達にやたら好意を向けられるようになった。



「…なんで、」
「なんで知っているのかって?あは、それはね、君は連れて来られたからよ、


この僕に」



連れて、来られた…?
目の前の彼女に、わたしは日常を取られたの?
呆然とした頭では何も考えることが出来ないけど、ただ喋りつづける彼女の言葉を頭に入れる。



「楽しかったかしら?王子様達に愛されていくのは、学校中のお姫様になるのは。実に楽しそうだったわ!」



やめて、楽しくなんかなかった



「あなたは平凡逆ハーを狙っているようね?突き放して、それでも愛をくれる彼等に優越感でも抱いていたのかしら?」



ちがう、優越感なんか感じてない



「幸村精市は優しかった?真田弦一郎はあなただけに甘かった?あなたがそれを望んだんだもの。それに…」
「ちがう!望んでなんかない!」




「ねえ、あなたわたしをここに連れて来たんでしょ!?じゃあ帰して!元に戻して!こんなところにもう居たくないの!戻して!…戻してよ…!」














「それは出来ないわ」










凜、と彼女が放った言葉は、残酷なものだった。
くすくすと笑う彼女は笑いを堪え切れなくなったようで口を開けて笑いはじめた。




「だってあなたは僕のために呼ばれたんだもの!今は精市も雅治もブン太も赤也もあなたの方を向いているかもしれない、でもここからは違うわ!」



そこまで言い切ってから前髪をわけて黒ぶちの眼鏡をおもむろに外しはじめた。
前髪で隠れていたその瞳は綺麗な二重で少し釣り上がっていて、何より左右の色が違った。



「神様に頼んで最強設定にしてもらった!容姿も変えた!声も可愛らしくしてもらった!勉強だってできるわ!そう、最終的なお姫様はこの僕なの!」
「…」
「あなたはただの駒に過ぎないわ!せいぜいわたしを怒らせない程度に残りの幸せを楽しむのね!でも覚えておきなさい、最後に彼等を手に入れるのは補正なんかの力を借りたあなたじゃない、傍観主の僕なの!」




ふふん、と鼻を鳴らしてようやくわたしの腕を話し彼女は教室から出て行った。
じんわりと痛みが広がる右腕を見ると、女の子に捕まれただけなはずなのに青紫色の痣になっていた。
そのことよりも、今のわたしの頭にあるのは帰れない、ということだけで。



いつまでこの状況が続くの…?

代わるのなら、早く代わってよ

そうすれば帰してくれるんでしょう?


せっかく元に戻れるかもしれないと思ったのに…




「…どうして…わたしなの…」













「今の話、詳しく聞かせては貰えないだろうか」





20120802


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