授業なんて何時もは早く終わってくれと願っていたのに。
休み時間は待ち遠しくて、先生が教室に入って号令を促すまで話していて。
当たり前のことだったのに、今は当たり前じゃない。
あれから一週間くらい経って、ようやく色んな事がわかってきた。
例えば…これは夢じゃなかったこと、とか。
彼等はわたしの世界では少ししか出てなくて、結局は負けちゃう学校だったけど、やっぱり部内戦とか、練習とか一つ一つをしっかりやっていることとか。
「(だからといって何かするわけではないけど)」
朝は始業のチャイムぎりぎりに登校して、休み時間はやらなくてもいい予習とか宿題をひたすらやって、放課後は誰よりも早く帰る。
テニス部に捕まることもあるけど、大体は何とかなった。
昼はどうしても逃げられないけど。
「あ、そういえば次の土曜日、オフになったからね」
「む、何かあったのか?」
「顧問が用事があるらしくてね」
「やりぃ!」
「藍先輩!遊びに行きましょうよ!」
「俺も行くぜよ」
「みんなで行こうぜい!」
わいわい盛り上がったみんなを横目に早々と弁当を食べ切って片付ける。
藍は土曜日空いてるよな?と聞かれて曖昧に答える。
じゃあ今日も用事があるから抜けるね、と隣の真田くんに告げて早足で屋上を抜け出した。
誰も、誰もいないところ。
今は使われていない教室に入って一息着く。
「…神田さん、」
「…!」
誰もいないと思っていたのに、ドアが開いて誰かに話し掛けられた。
…確か、同じクラスの…
「遠藤、さん…」
「ねえ、神田さんって、一体誰なの?」
いきなり告げられた言葉に頭が真っ白になる。
「一週間くらい前から、いきなりうちのクラスに入ってきたけど、紹介もなくて、みんな神田さんのこと知ってて、…あなたは一体誰なの?」
「、あ…」
「一番は、テニス部のこと。みんな毎日あなたのところに行って…」
そこで言葉を詰まらせる遠藤さん。
一旦俯いて、すぐに顔を上げて叫ぶように言い出した。
「精市だって…おかしくなっちゃったの…!」
「…ゆ、幸村くん…?」
「あなたが来てから…っ付き合ってたのに、ずっと一緒にいたのに名前すら覚えていなかったの!」
あなたが何かしたんじゃないの、と言ってくる遠藤さんにもう何も考えられなくなった。
わたしの、存在がこれを起こしたの―――?
この一週間ずっとわたしだけが被害者だと思ってた。
知っている人もいない世界に投げ込まれて、わたしのことを知りもしない人に好意を露骨に向けられて。
「…めんなさい…」
「…え?」
「ごめんなさい…!ごめんなさい!でもわからないの、なんでここにいるのかもどうやったら帰れるのかも全くわからないの!」
「神田さん…」
「わたしだけが辛いんだと思ってた…でも遠藤さんみたいな人がいるって知らなかったの…!」
でもこんなものただの言い訳だ。
泣くなんて狡い。
でもとめどなく流れてくる涙を止める方法なんて知らなかった。
ひたすら謝っていると、肩に手を置かれて、その手を辿ると遠藤さんが悲しそうに笑っていた。
「…落ち着いて、神田さん」
「…っ…」
ごめん、 神田さんも辛かったんだね、と言われて遂に涙腺が崩壊したわたしは遠藤さんの肩に顔を埋めて泣きつづけた。
…やっと、話せる人を見つけた。
しゃくりあげながら今までの事を全部話して、最後に落ち着いてきた頃もう一度ごめんなさいと謝ると今度は頭を撫でられた。
20120718