「ねね、柳くん」
「なんだ」
今は授業中だぞ、なんて言いながらそれでも後ろを振り向いて話してくれるのはうちのクラスの王子様、柳蓮二くん。
「この前の体育祭の打ち上げ参加するかの紙回ってきたよ。っていうか確率全然わかんないんだけど」
「本題はどっちなんだ」
「3:7で確率かな。柳くん得意でしょ、確率計算」
テニス中に計算してるもんね、あの時の柳くんってテニスしてるの?数学してるの?
柳くんの椅子の背もたれを両手で掴みながら話しかけると、綺麗な指でわたしの机から紙を取って書き込み、前の席に回していた。あ、参加するんだ意外。
ていうか無視か。
「苗字も参加するようだな」
「あ、そうなんだー」
「俺も参加することにした」
「うん見えたよー。珍しくない?」
「この日は部活が休みだからな」
「そっかー」
「ところで本当に確率が苦手なようだな」
「あ、いきなりだね。そしてばっさり言うんだね」
今日中に提出しなければいけないのに何にも埋まらないプリントを眺めていると前から椅子が動く音がした。
「教えてやろう」
…神!
柳くんらしいシンプルなシャーペン(無印っぽいなあ)がプリントの上で文字を書いて、丁寧に教えてくれる。
あーなんかわかったような気がするかも。
「…じゃあ解いてみろ」
「わかりました。……………」
一通り説明が終わって、最後の少し難しい問題を一人で解くように指示される。
ふんふん、なかなか難しいぞ。
「…苗字、ここの計算が違っているだろう」
「あ、だからこんな壮大な確率になってしまったんだね」
ありえないよね、さんぜんななひゃくはちじゅうさんぶんのにせんはっぴゃくいちとか。
消しゴムで丁寧に消してやり直す。
めっちゃ普通に答え整数になったわ。
「合ってる?」
「ああ」
「やったー!」
「これで提出できるな」
「もう柳くんのおかげだよ!柳様って呼んでもいい?」
「やめてくれ」
「わかりました!」
ですよねー。同級生に様づけって嫌だよねー。
ところで柳くんていつもこんな計算頭の中でやってるの?
打ってから、相手が打って、そこから確率計算するんでしょ?
すごいスピードだね!
意気揚々と筆箱にシャーペンをしまいながらそういうと、そんなに難しいことでもないさ、と返ってきた。
「難しいよ!わたしなんか紙に書いて一時間かけてこの問題くらいのことしかできないからね!」
少し興奮してそう言うと、トントン、と柳くんが人差し指で机を叩いた。そこで顔をあげて柳くんの顔を見ると、口の端を少し上げて、人差し指を口に近づけて内緒、のポーズをしながらこう言った。
「適当に言っているからな」
えー…
20120628
※捏造です。
きっとちゃんと計算しています。