そろそろ我慢の限界だ。いくら博愛主義と言ったってこれはもう浮気じゃないのか。わたしにはいろいろ言う癖に自分の事は棚に上げて。それでも彼のことが好きだから髪を撫でられる度に、唇を重ねられる度に自分には彼の愛が特別強く与えられている、と半ば思い込むようにしてきた。


だけど、だから、


「もうここには来ない」
「…どうして?」
「あなたはわたしを愛してはくれないから」
「俺はなまえを愛してるよ」
「訂正するわ。あなたにはわたしが必要ないから」



そう言い放つと視線も合わせることなく荷物を片付けはじめた。…といってもほとんどわたしが置いたものはないけれど。




「…ふぅ、」



それとなく片付けて、捨てるものはごみ袋にまとめた。後は、後はこの左手のリングを外すだけ。


「リング、置いていくから。」


パソコンから目を離さない彼に近づいて、リングを外すべく左手の人差し指に右手を添える。



「今までありがとう」

「次は、貴方のことを全て理解してくれる人が良いんじゃないかしら」

「後は、素直な人」

「そして必ず、貴方が心から愛せる人」

「じゃあ、これからも頑張って」





「………っ…楽しかったわ」







「じゃあ、君がなってよ、次の彼女」








リングを置いたその腕を掴まれて、一瞬で抱き込まれる。椅子に座っている彼に倒れ込んだわたしは体制が辛くて思わず手を突っぱねて逃れようとするけど、その前に腰に回された腕が力を増したからできなかった。




「な、何言って…」
「なまえ以外にいないよ、俺の彼女になれるのなんて」
「離し…」
「離さない。ねえ、教えてよ。俺をわかってくれて、気持ちをぶつけてくれて、それで俺が愛せる子、なまえ以外にどこかにいるの?」
「…違うよ」
「何が違うの?なまえは俺のこともう嫌?こんなに俺が愛してるのに」
「貴方のは、違うの。」
「だから、何が?俺の、何が間違ってるの?」
「貴方のは、わたしに対する愛じゃないのっ…!所詮、貴方にとっては皆一緒なのよ。愛じゃない…わたしが欲しいのは貴方だけなのに、貴方が欲しいのはわたしだけじゃないの!」
「…君だけだよ」



叫ぶわたしとは逆に、耳の近くで直接脳に届けるように彼は囁く。耳の裏にちゅ、と音を立てて吸い付いたと思ったら宥めるように背中を撫でていた手がわたしの首の付け根を押さえて、上を向かされる。目があった瞬間上から覆いかぶさるように唇を押し付けられ、強引に舌を侵入させて来る。それから丹念にわたしの咥内を探り、しばらくして満足したのか舌を軽く吸ってから唇が離れた。絡み合う視線と、わたしの唇と彼の唇を繋ぐ銀の糸がやけに目についた。



「俺は人間が大好きだ。愛してる。でも、それとなまえへの愛は違う」
「…はぁっ…はぁっ…」
「俺が一生をかけて守りたい、幸福にしたいと思うのはなまえだけだ」
「…っ」
「他の人間がどうなったってどうでもいい。俺は見てるのが好きなんだから。でもなまえに関しては違う。」
「…貴方は…」
「臨也って…呼んでくれないの?」
「…臨也は…わたしのこと、すき?」
「…今までの話、聞いてなかったのかな、」
「もう一回、言って欲しいの」
「…まぁかわいい彼女のためなら何回でも言うけど。…世界で一番愛してるよ、なまえ」
「わたしもあいしてる、臨也」





20120529


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