「あちー…」
「夏だわ、これは夏来たわ」
「来たわ」






部活の休憩中、体育館のじめじめむしむしとした空気に耐えられなかったなまえと高尾はタオルとボトル片手に体育館を飛び出た。
他の部員は疲れ果ててその場に座り込む者もいるというのに、脱兎のごとく走り去る高尾に監督は顎に手を当てて感心していた。








「俺の夏休み部活で終わりそう」
「わたしもだけど」
「女の一人でも近くにいれば良かったのに」
「ねえ私女なんだけど視力落ちた?」
「ばっかお前俺の視力が落ちるわけねえだろ鷹の目舐めんな」
「つか高尾だから鷹なの?安直な名前だね」
「お前表出ろ」










口だけは休む事なく動き続けてハイテンポで会話を続けているが、もうお互い何を言っているのかわかっていなかった。
高尾は表に出ろ、と言ってからやべえ今表にいんじゃん、と思ったがあまりの面倒臭さに訂正もせず、なまえはもはや高尾の言う事を理解できていなかった。






「…」
「…」
「…いやもう表にいるし」
「遅くね?」






ぼーっと空を見ているなまえが黙ったかと思えばいきなりさっきの話を持ち出して来て、思わず高尾は肩を軽く叩く。






「うわあ高尾さわんなあはいバリアーバリアー」






なまえは抑揚のない声で高尾と自分の間で手を降ってバリアーを張った振りをした。
緑間なら相手にしないところではあるが、そこは高尾。
すべて拾ってやるのが彼なのだ。






「いっそ懐かしいわ!はい破壊ー」
↑パンチで壊す振り
「いやこれあれだから50mくらいあるやつだから」
「はいばーん」
↑さらに壊す
「ああウォールローゼがあああ」
「俺やべえ」
「高尾の巨人」
「意味わかんねえし」
「進撃の高尾」
「ドリブルは宮地さんのがうめえしつか壊したけど撤退しねえの?」
「うわああ逃げろおお」






そういってまたぼーっとするなまえだが、高尾にはわかっていた。
もうなまえにはネタが無いのだ。
そして少し経てばまたくだらない事を始める事もわかっていた。






「戦え!戦え!」






そう言ってなまえが懐から取り出したのは制汗スプレーだった。
ぶっちゃけ腹にシューされても高尾としては涼しいだけだったのでとりあえず放置していた。
俺は駆逐されているのか。
そう考えながら。
しかし気分はカサカサと動く茶色い物体のようであった。
駆逐するためにスプレーとかそれ巨人じゃねえから。
口に出そうとしたがやはり面倒臭さが優ったので黙っていた。






「巨人やばいね」
「やばい」
「でかいし」
「タッパあるかんな」
「そんなスケールじゃないよもうあれは」








そうだな、と一息ついた時。
高尾となまえの後ろで盛大に扉が開いた。








「おい、練習が始まるのだよ、早く来い」




「わー2m級だー駆逐してやる」






高尾は隣から聞こえたなんの迫力も思いも伝わってこない声と2m級の巨人から発せられる本気でイラついている声に今日も平和だ、と思った。








20130521









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