柳先輩は出来た人間だ。
出会った当時、本当に中学生か、と思わせる程の人格者だった。
そんな先輩がいる生徒会に入った中学生のわたしは、いつのまにか本当にどこにでもいるただの高校生になっていた。


柳先輩は中学の時はあのテニス部のレギュラーだった。
参謀と呼ばれて、頭も良く優しい先輩は下級生はもちろん、同級生にだって慕われていた。
切原くんなんかは本当に懐いていて、口を開けばテニス部の先輩の話をしていたが、その中でも柳先輩はすげえんだよ、とよく言っていた。
わたしも先輩の中で柳先輩が一番好きだった。
生徒会の書記をしている先輩も、テニスをしている先輩も憧れだった。


でも、先輩はテニスをやめてしまった。


理由は、腕の故障らしい。
階段から落ちて来る子供を咄嗟に庇ったときに痛めたんだそうだ。


高校に入って、また生徒会に入った先輩は圧倒的な推薦の数で今度は生徒会長になった。
わたしも、一年遅れでまた入った。
よろしくお願いします、と言ったら懐かしいな、頼りにしている、と優しく笑ってくれた。



「なまえ、仕事は終わりそうか」
「はい、あともう少しです」
「…ふむ、良く出来ているな、流石だ」



中学の時よりも生徒会にいるようになった先輩。
その分距離も近くなった。
だから、わかってしまうんだ。
ふと書類から顔をあげたときに無意識のうちにテニスコートを見ていること、テニス部、という文字を見ると指でなぞっていること。



「なまえはよく頑張っている」
「…先輩が、頑張っているからですよ」
「そうか。だが、たまにはお前にご褒美をやろう」
「本当ですか?」
「ああ。帰りにそこのコンビニにでも寄ろう。何か買ってやる」
「先輩、わたしピュレグミが食べたいです」



そうか、と笑う先輩。
ねえ先輩、知っていますか?
ピュレグミって時々星型が入ってるんですよ。
入ってる確率は結構少なくて、もし入ってたら良い事が起きるんです。



「星型出たら先輩にあげますね」



ちっぽけな、おまじない。
神様にお願いするんだ。
先輩に良い事がありますようにって。



20121013


何がしたい。
ピュレグミ食べたいです。
生徒会長な柳先輩に優しくされたいです。
それだけです。







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