「あ、おはよう跡部」
「ああ」



今日も今日とて氷帝学園中等部男子硬式テニス部は練習である。
部室に入れば、まだ制服姿の跡部がいた。
ネクタイを外して、ソファでくつろいでいる。
…相変わらず優雅ですね。



「…あのさあ、跡部」
「あ?なんだよ」
「下のジャージ貸してくれない?」
「は?なんでだよ、このクソ暑いのに」
「それがさぁ、」



今日の朝の事である。
わたしはチャリ通なので、毎日住んでいるマンションの駐輪場から自分の自転車をだすわけだが、わたしの愛車はスタンドか片方だけの奴ではなくて、ママチャリに多いような一回後輪を持ち上げて下に入れるタイプのスタンドなので、普通にいつものようにそのスタンドを外そうとした。
しかし隣の自転車に引っ掛かったので、何気なくその隣の自転車をずらした。
その直後である。
勢いよく上がってきたスタンドがわたしの脛にクリーンヒットしたのだ。
これは無い。
もう青痣である。



「わたし今短パンしかないからさー、貸して!」
「ああ、いいぜ」
「わーいありがとう!」
「…しかし庶民にはそういうことも有り得るんだな」
「ああ、跡部って自転車乗らなそうだもんね」
「乗らねえな」
「乗れねえな?」
「馬鹿野郎、俺様にできないことはねぇよ」



はっ、と笑う跡部が本気すぎて困る。
でもわたしは知っている。
こいつが虫苦手なことを。
意外と可愛いところあるじゃねえの、あーん?



「おはようさん」
「あ、忍足だ。遅かったね」
「まあな。あれ、岳人おらんの?」
「あー来てないかも。来てないよね?」
「ああ」
「じゃあわたし着替えて来るからシャワー室開けないでね」
「おん」



着替えを持っていそいそと着替える。
あ、ジャージ借りるの忘れた。
短パンの上からはこう。



「跡部ージャージ貸してー?」
「ほらよ」
「…!…っ」
「さんきゅう!あれ、忍足どうしたの」
「なまえ…足どないしたん!」
「あ、これ?気持ち悪いよね、隠す隠す」
「俺の美脚が…!」
「お前のじゃねえよわたしのだよ」
「本当キモいな忍足」



ラケットを持って跡部が出て行った。
忍足がキモいからわたしも部室を出る。



さあ、部活頑張りますか。



20120925


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