「おーい、なまえー」
「はいはーい!今行きまー…」



クラスで人気の反ノ塚くんに呼ばれ、返事をしてから立ち上がろうと…した。
その瞬間目の前がぐにゃりと歪んで…




(…また、かぁ、)
「え、おい、なまえ?なまえー?え!?」



最後に見たのは目の前に座ってた友達がびっくりしている顔で、最後に聞こえたのは反ノ塚くんがゆるく驚いている声だった。







「、んー…」
「お、起きた?」
「!反ノ塚くん…」
「なまえさ、貧血だって。」



反ノ塚くんは女子は辛そうだよなー、と笑いながら寝ているわたしのおでこをぽんぽん撫でる。
そのまま広がっている髪で遊びはじめた指をそのままにして、問い掛けた。



「…保健室?」
「ん?そう。倒れたからさ、運ばないとと思って」
「今って何時かわかる?」
「今はなー、後5分で昼休み」
「!…ずっといてくれたの?」
「まあそうなるけど。何て言うか俺も色んな意味でラッキーってかんじ?だし」
「…ごめん」
「いーっていーって!」



そうだ、なまえの昼ご飯もあるんだぜ?とわたしのスクバを持ち上げる反ノ塚くんに持ってきてくれたの?と聞くとお礼は一緒に食べるので、いーぜ?と返された。
無駄にカッコつけていたので少し笑う。
本当にこの人は…緩い人だ。
見た目は最初関わっちゃいけないかと思う風貌だが、それは見た目だけで、この人自身からいい人オーラがガンガン出ているのでクラスでは男女問わず人気者だ。
かく言うわたしも彼が好きで。
話しかけたりはしないものの今の状況は非常にまずいんだ。


…だって、彼は先祖返りだから。



ここで、わたしの自己紹介をしておくと、まず最初に言うことは『わたしも先祖返りである』ということだ。
ちなみに妖館には住んでいない。
さらに言うと、家出中であり、反ノ塚くんを含め下の学年にいる先祖返りにはわたしが先祖返りであるという事を知られていない。

知られては、まずいんだ。
というのもわたしは吸血鬼の先祖返りで、要するに血を吸うことを好む。
知られてはいないが、血管系、免疫系の病なら血を吸ったり入れたりする事で治したりもできる。
しかしそれよりも、血を飲みたいという願望が勝るのだ。



特に、先祖返りの。



そういうわけでわたしの今の状況は非常に危機迫っている。
飲みたいのみたいノミタイ、と本能がガンガン騒ぎ立てる。
目の前にこんなに美味しそうな血の匂いがするのに何故我慢しなくてはならないのか。
理性が反論する。
人の、特に先祖返りの血を一度吸ってしまえばもう後戻りは出来ない、と。
吸われる方は多少の差はあるが、共に依存関係に陥ってしまうのだ。
吸血鬼の方は特に顕著にそれが表れ、定期的に吸わないと自我が保てなくなってしまうという。
その先祖返りによって、長さはまちまちだが、酷い例では1時間おき、というものもいて、自分から殺処理を願ったという話も聞いた。
つまり、私たちにとって人間の血は麻薬と一緒なんだ。




「お、チャイム鳴った。食おうぜ」
「…反ノ塚くんは教室に戻った方が…」
「気にしなくていーって。俺が居たくているんだし?」



そうじゃなくて!
君は良いかもしれない、でもわたしが無理なんだよとは言えずに弁当を広げた。
…味がしない。
詰め込んでも空腹感が消えない。



ちら、とベッド脇で小さい丸椅子に座り、ばくばくとご飯を食べ進めている彼を見れば、つい首筋に目が行ってしまう。
ごく、と意識していないのに生唾を飲む。



「ん?これ食いたい?いーよーはい、あーん」
「え、ちが、んっ…」
「美味い?」
「…美味しい、ありがとう」
「じゃあその卵焼き欲しいんだけど」



だめ?と小首を傾げられ何だその仕種はかわいいな、とこっちも箸で卵焼きを掴んで彼の口に持っていく。

…我慢しろ、我慢しろと耐えながら幸せなようで苦痛の時間を過ごす。



「全部食べたのか、偉いなー」
「…好き嫌いはあんまりしないから」
「じゃあ、貧血しないようにバランス良く食べろな」



全て食べ終わり、片付けも終えて、反ノ塚くんが伸びをしながら欠伸する。
それが移ってわたしも欠伸をするとお、移った?と顔を覗き込まれた。

不意に、近くなったその距離に、その香りに、さらけ出された首筋に。


…耐え切れなくなった。




「ぅお!?え、なまえちゃん?!」



がっ、と肩を掴んで自分ごと倒れ込む。
左手は反ノ塚くんの腋の下当たりから背中に回して、右腕を後ろから回して反ノ塚くんの頭を少し左に傾けさせ、首筋を吸いやすいようにした。
そこに唇をつけて、調度良い場所を見つけたら念入りに舐める。



「なまえちゃん?なにこの状況?」
「痛くはしないから…」
「俺、受ける方なの?」



えーー、とこんな時なのに暢気な事なんて気にしていられない。
もう準備は出来た。
しゅるる、と音がして気付けば自分が制服ではなくて、吸血鬼になっていた。
…ここまで自分を抑えられないなんて、と自嘲しながら牙を血管に当てる。




「お前…先祖返り!?…つっ…!」




つぷ、と牙を差し込んでそこから血を吸い出す。
…ああ、美味しい。
身体の内側から潤って行くような、満たされて行くような。
ずっと飲んでいたいとも思えたけど、すぐに満腹になった。
最後に一舐めして、ふと顔を上げて、気づいた。
…何て事をしてしまったのか。
呆然と少し口を開けて反ノ塚くんがわたしを見ていた。



「なまえ…」
「…ごめん、」
「吸血鬼…?」
「ん、そう。」
「…俺の血、美味いの?」
「…それは、もう」
「ふーん、そっかあ。じゃ、いいよ、飲んでも」
「…え?」



知らないうちにわたしが彼の動きを封じるかのように抱きしめていたはずが、彼に抱きしめられるような体勢になっていた。



「あの、ちょっと、離し」
「俺なまえ好きだし?なんか今のすごーく気持ち良かったからむしろウェルカム的な?」
「!」
「赤くなってるーかーわい、」



ちう、と口づけられて、次の瞬間には全部奪われるくらいの甘くて深いキスが降ってきて。
案外、この人自体が麻薬なのかも。




「でも俺、気持ち良くさせるのも好きだよ」
「!」
「試してみよっかー」
「遠慮します!」
「だーめ、逃がさない」






20120820


スーパーノーマルな彼も素敵だけど、別にヤンデ連勝でもいい。
スーパーノーマルな彼も素敵だけど、別にSだったらそれでいい。
つまり好きなんですね。
独占欲とか強くても良い。


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