「うっわ徳川くんお弁当超美味しそう」
「…苗字さん、」
「しかも大きい、持ち帰り邪魔じゃない?」
「…でも、このくらい普通なんじゃないかな」
「あー男の子だもんね」



わたし小食では無いと思ってたんだけど徳川くんのお弁当箱の大きさには負けるわー、と自分のお弁当箱(水色)の蓋を開ける。


シュバッ!
ガコン!



「…?どうかしたのか?」
「うん、ちょっとね」
「…好き嫌いは良くないな」
「違うよ!」



徳川くんもこれ見れば蓋閉めたくもなるよ、とドン引かれるのを覚悟してわたしの昼食を見せてやる(上から目線)

案の定、ちら、と目線を寄越した彼は少しだけ動きを止めた。
しかしその後の全く動じてない様子は流石だと思います。



「閉めたくなるでしょ?」
「…まあ、何というか、ユニークな弁当だな」
「ユニークじゃないよ!むしろシンプルだよ!」



思わず立ち上がって突っ込んでしまった。
ヤバい。
絶対引かれた。
大人しいキャラだったのに。

いやしかし悪いのは全てこの弁当と母親なのだ。
そう、諸悪の根源はこいつだ。







この、もやししか入っていない弁当だ。







深呼吸をして、もう一度このもやし達と向き合ってみる。
ただのもやしでは無いようだ。
しんなりと炒められている。
いや、生のままで入っていても問題だが。

そこでふと携帯にメールが入っているのに気付き、確認してみる。





From:母
Title:
――――――――――
ポン酢入れるの
忘れちゃった☆





握り潰してやろうかと思った。
これはもう馬鹿のやることとしか思えない。
何だか何食わぬ顔して昼食をとっている徳川くんにも絡みたくなってきた。



「徳川くん、あのですね、聞いてください」
「…ああ」
「あの、一昨日から…一昨日の晩御飯から………も、もやししか…食べていなくてですね、」
「…そうなのか、」



ああだめだ恥ずかしくなってきた。
男の子(しかもイケメン)と話して赤くなるってどこの少女マンガだと思いたいけど話の内容がもやしって。
もやしってどういうこと。


す、



「…一口、あげようか」
「い、いいいいいですー!」



余程哀れに思ったのか箸で卵焼きをつまんで一口分け与えようとしてくれた。
優しい人である。
しかしその優しさは今は毒です。



「取り乱して申し訳ないです」
「いや、気にしなくていい。話なら、いつでも聞くから」
「あ、本当に?じゃあ後もう一つ…昨日の話なんだけど…」
「ああ、」




「余りにももやしもやしした生活しててね、なんか給食のおかずが全部もやしの夢見た」




笑っちゃうよね、と吐き捨てると徳川くんが俯いていた。
箸も止まってしまっている。



「あの、苗字さん…」
「?」



また、す、と美味しそうなおかずを差し出された。





…いや、いらないから!


ちょっと食べたいけども!






20120817




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