※大学生くらい






結局わたしは、蔵がどうしようもなく好きなんだ。




何時ものように蔵の家のソファを背もたれにして蔵が座り、その蔵を背もたれにしてわたしが座る。
そのまま時々話したりしながらテレビを見る。
わたしのお腹の前でわたしの手を取る右手も、髪の先をいじる左手も、よっ掛かっている胸板も、わたしの後頭部につけたままの唇も、すべてが安心させてくれる。
…しすぎて眠くなったりもするけれど。




「…ん?なまえ、眠いん?」
「んー…だいじょぶ…」
「眠いんやなあ、寝やすいようにベッド行こか?」
「んー…」



眠くて何にも考えられなくなって、それでも蔵がわたしの手を離したのはわかったから離さないで、と蔵の方に振り返って首に手を回して抱き着く。
…蔵はわたしがこうすると絶対に頭を撫でてくれるから。



「…蔵も、ぎゅー、して…?」
「…(何この子、どこから来たんこの可愛さ)もちろんや、移動するで、ちゃんと捕まっとき」
「ん」



ゆっくり抱き上げて、振動を起こさないように歩いて柔らかくベッドに降ろしてくれる蔵。
またそのまま離れて行くようなそぶりを見せたので首に回した手を離さないようにさらにぎゅう、と抱き着いていた。



「ちょ、なまえ、一回離してや」
「やぁ」
「やぁ、て…」
「このままがいいの」



ふう、と蔵がため息を吐いたのが聞こえた。
…怒らせちゃった…?
ちら、と蔵の顔を見ようとしたけどその前にがば、と音が出るくらいに蔵に抱きしめられた。
もう包帯を外した左手で前髪を掻き分けられて、現れた額に唇を落とされる。
徐々にまぶたや耳、頬、と落ちてくるのがくすぐったくて身をよじるとあかん、と言われて腰に回された手を強くされた。



「可愛すぎや…!」
「んぅ、ん、」



上から押し付けるように唇を合わせられる。
びっくりして緩んだ隙に舌が入り込んで好き勝手に、でも優しく暴れ回る。
舌を軽く吸われて、甘く噛まれればもう力なんて入らなくて。
残りの力を振り絞って蔵のTシャツの端を掴んだ。



「…なまえ、ちゃうやろ?」
「あ、ふ…んん…?」



キスを続けながら器用に話す蔵はわたしの手を絡めとってベッドに縫い付けた。



「く、らぁ…」
「ん?」
「もっと、して…」



息も絶え絶えで、でもやめてほしくなくてそういうと予想外に蔵は目を少し大きくして驚いた後、柔らかく笑ってみせた。



「今日のなまえちゃんは甘えたやな?」
「だって…最近蔵忙しくて…」
「ああ、レポートな。…寂しかったん?」
「………ん、だから、」
「ああ、今日はもう全部終わって暇やからな、目一杯構ったるで」



俺もなまえ欠乏症や、ともう一度キスの雨を降らせて来る。
それはわたしが酸欠になって涙が溢れて来るまで続いた。
その間ずうっと手は繋いだまま。

今は蔵に腕枕をしてもらって、お昼寝モード。
わたしは蔵の鎖骨くらいに顔を埋めていて、蔵はそんなわたしの髪をずっといじってる。



「くらぁ…」
「なに?」
「くら、くら、くらぁー…」
「え、どしたん(笑)」
「…大好き…とか、言って、みたり」
「(え、誘ってるん?この子)俺も、」
「でも、もっとぎゅーしてくれなくちゃ、やだ…」
「(もう何なん?俺試されてるん?小悪魔なん?)お安い御用や、いくらでもしたんで」



…蔵は暖かいなあ。
身体が暖かいし、声も喋り方も性格も暖かい。
お日さまみたいな人だ。
すり、と頭を擦り付けてみると耳にちう、と吸い付かれた。



「眠い…」
「ええよ、眠り?」
「…うん」
「おやすみ、なまえ、愛してんで」



起きたらまた構ってもらおう。
とりあえず今は、わたしを抱きしめていてね。





20120803





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