夏休み最後の日。

…それは決戦の日である。













「……せ、成績上がった…!!」



先生に配られる通知表を力を押さえられない両手でくしゃくしゃにしながら歓喜に震える。
隣の徳川くんに変な目で見られてるけどどうでもいいんだそんなことは今は。

五段階評定で衝撃の平均評定2.3をたたき出した前回、これはさすがにいかんと思いとりあえずテスト前日に教科書を読んでみたらなんと、赤点が無くなったので喜んでいたら評定も格段に上がった。



「ちょ、ちょ、徳川くん見てこれ、わたしの時代来たかもしれない」
「……前回は、どのくらいだったか聞いても…」
「え?聞きたい?2.3だけど!すごくない?」
「…努力はしたんだな」



徳川くんはどうだった?と聞くと何も言わずに紙を渡してくれた。
ふんふん…
平均評定4.8!?




「倍近くあるね!すごい!」
「…そうか?」
「すごいよ!テニスもすごくて成績も良いなんてさすがだね!わたしも見習わなくちゃ!」
「苗字さん、声が」
「あ、大きい?ごめん」
「いや…」



口元に手を当てて下を向く徳川くん。
あ、もしかして迷惑だったかもー…。
いやー、徳川くんて話し難そうなイメージあったけどそんなことなかったな。



「でもさー、わたし本当に世界史が苦手で…」
「そうなんだ、意外だな」
「え、そうかな、いやでも勉強は全部苦手だからそんな目立たなかっただけだと…」



ほら、少し自虐的になると見た目はこっちを見下ろしているだけだけど、わたしにはわかる、この人は今どうやってフォローすればいいかわからなくなっている。
表情が出ないだけで反応は良いから本当に話していて楽です。



「苗字さんはやればできる人なんじゃないかな」
「もう気を使ってくれなくてもいいんだよー」
「…すまない」



あ、ほんとうに気を使ってたんだね。
もう一度わたしの通知表を見て、何が真剣に考え込んでしばらく見ていたらいきなりこっちを振り向いた。
じっとこっちを見てくるのでなんだなんだと見返していたら我に返ったようで話し掛けてきた。



「苗字さんは数学も苦手みたいだな」
「あ、ばれた?実はそうなんだよねー!サインコサインてどこがサインなのか未だにわからないっていうか。追試とかもう免れる気も無くなって来ちゃって」
「…苗字さんは、やればできる人だと思うよ」
「あはは、徳川くんって面白いね」



多分他に言うこと無くなっちゃったんだろうなあ。
通知表を返してもらって、ファイルにしまい込む。
今日は少し高いアイスをコンビニで買って帰ろう。



「じゃあ徳川くん、わたしは帰るよ。テニス頑張ってね」
「ああ、ありがとう。…苗字さん、」
「ん?なんだい?」
「…宿題、わからない所があったら何時でも連絡してくれれば、教えるから」



だから、留年は…と小さくつぶやく徳川くん。
え、もしかしてわたしがこのままだと留年すると思ってる?
大丈夫だよ、徳川くん。
2はまだ単位もらえるから留年はしないよ。
せっかく徳川くんみたいな知り合いがいるのに、わざわざまた知らない学級に飛び込む勇気はないよ。



「あ、ありがと、終わり際にすごい連絡いれるかも」
「…予定をみて、一緒に勉強しようか」
「え!そこまで迷惑かけらんないよ」
「…いや、なかなか苗字さんみたいな、似てる人には会わないから…留年は阻止したいんだ。」



…やっぱり!






20120720

いちおう、第一印象が悪い徳川、の続編的な…




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