ようやく塾が終わった。
週に一度の個別指導は先生はいい人なんだけど未だに慣れなくて。
終わった瞬間逃げるようにして階段を降りて家に帰るんだ。



「なまえちゃん今日もお疲れ様」
「ありがとうございました」



バッグに教科書を詰めながら目も合わさず笑いもせずに返事をするのはいつものことだ。
ただ今日はやけに先生が話しかけてきた。



「なまえちゃんの学校は頭いいから大変でしょう」
「そんなことないですよ」
「でも立海てレベル高いからね、うちの塾からも狙っている子はいるんだけど…」
「そうですか」



たんたん、といつもより早めに階段を降りて、話を切り上げようとする。
でもなかなかうまくいかなくてどうしようかと思ってた頃、ポケットに入れていた携帯がなった。



「(よっしゃ)はいもしもし」
『あ、なまえー?俺俺』
「…幸村…」



こっちもこっちで厄介な男からかかってきた。



「どうしたの」
『暇だったからさー、どうせなまえも暇だろうって』
「いや、忙しいよこっちは」
『またまたー』
「(むかつく)」

『なまえの忙しいは世間では退屈だから』
「意味わかんないから。頭おかしいんじゃないの」
『あ、今心砕けたーもうバラバラだよこれ。どうしてくれんの。砕け散っちゃって道端に落ちていっちゃったよ』
「大変だね」
『これはなまえが町中練り歩いて探して修復してくれないと。明日から辛くてテニスできなくなっちゃう。部長なのに』
「(もうやだこいつ)」



でも不思議と笑っていた。
声をたてて笑うわたしに隣にいる先生が目を見開いていた。



「じゃあ先生、さようなら」
「あ、うん、気をつけて」
『…なに、男?』
「塾の先生」
『ふーん、俺が教えてあげるのに』
「いいよいらない」
『ばっさり言うなあ』



くすくすと綺麗に笑う幸村の声はすごく好きだ。
性格に難はあると思うけど。
でもこれで辛いときは気づいてくれるし、周りをよく見ている男なのだ、こいつは。
だから立海はあんな個性的なメンバーなのにまとまっているのかな。
ああ、無性に幸村に会いたくなってきたかも。



『なまえ?』
「…」
『…なまえ?え、シカト?あーまた俺の心砕けた。おまえのせいで粉末だよ』
「…うん」
『…なまえ、どうかした?』
「…幸村」
『なんだい?』
「今から一緒に探そうよ」
『…』
「…」
『…素直に会いたいって言えよ、ばか』







20120630





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