休憩中、移動中、そして撮影中にも奏は浮かんだメロディをトキヤに伝えた。
それを聞いてトキヤが感想を言う。
着々と曲は完成に向かっていた。


「大体出来たなー」
「そうですね」
「そういえばさ、この後の事だけど」
「?はい」
「俺の役、絵描きはじめるじゃん?」
「ああ、そうでしたね」
「あれ自分で描く事になった」


こーんな大きい筆でさー、と説明し始める奏にトキヤはなにも言えなかった。
そして正直自分でなくて良かったと思った。
できない事は努力でも何でもしてできるようにする、というのはトキヤの中では当たり前な事で。
でも絵はどうしてもうまくいかなかった。



「大丈夫なのですか?」
「んー、まあね。感覚的な事は割とできるかも。運動とか、絵とか。勉強は無理だけどさ」
「そうですか」
「トキヤ勉強好きそうだよなー」
「まあ嫌いではありませんね」
「やっぱりな!」
「あれは積み重ねですから」


トキヤは自信家ではあったがそれはこれまでの積み重ねが自分を確かに輝かせてくれるのだと信じているからで。
歌こそ周りに誇れる特技であるが、その他にはコンプレックスばかりだった。
だからこそ、重ねて、重ねて。
奏のように天からの才は多くないから。

羨ましさもある、もしかしたら嫉妬の念すら湧くかもしれない。
でも奏を見てそういう感情が上回ることはないだろうことはわかっていた。



そして、奏とトキヤのドラマはそのクールで最高の視聴率を出した。
トキヤが所属するST☆RISHの新曲も同じ時期に出ていたので、歌番組では奏と歌った後に急いで着替えてST☆RISHとして歌ったりもした。

トキヤも忙しい日々を送っていたが奏はそれ以上だった。


今やこの芸能界は早乙女事務所の天下と言っても過言ではない。
奏も人気とは言っても早乙女事務所のタレントの方が何事においても有利に扱われ、そこまで出演はできていなかった。

それがその早乙女事務所の売れ筋との共演、そして長い芸能生活の中で初めて見せた歌声に元々のファンはもちろん、新規のファンも多く獲得したのだ。
奏は唯一早乙女事務所のアイドルと対等なアイドルになっていた。
増えた露出にファンは喜び、また奏を好きになって行く。

その後もソロデビューし、音楽活動も盛んに行うようになって行った。


「奏」
「あ、トキヤじゃん久しぶりだな!」
「新曲、聞きましたよ」
「まじて?なんか照れるわ」
「とても良かったです」


トキヤを探していたらしいスタッフがトキヤの名前を呼ぶ。
それに気付いたトキヤは奏にじゃあ、と小さく挨拶をして立ち去った。
元気そうで良かった。
心配はそれほどしていなかったが、忙しくなって体調を崩さないかと思っていた。
後輩である自分がこんな心配をするなんて失礼だとは思うが、トキヤは奏の友達として心配していた。
まあ杞憂だったわけだが。
考えてもみれば当たり前だ。
あんなに楽しそうに好きだと言った音楽をしているんだ。
あの奏が苦痛に感じるわけがない。



「……私が会いたかっただけかもしれませんね、」
「一ノ瀬さん?」
「いえ何でもありません」
「そうですか、あ、ここからお願いします」
「わかりました」




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -