ユニット結成が確定し、後は歌が出来るのを待つだけ。
奏とトキヤは定位置になってしまったセットの一部であるデスクに二人で座って話していた。




「どんな歌になるかな」
「どうでしょうね」
「歌いやすいのがいいよなー。トキヤが歌えても俺が歌えないんじゃ切ないし」




どうだか、トキヤはそんな事はあり得ない、とは言う事ができなかった。
奏が、本気で言っている事はわかっていたから。
奏は自分の才能をまるで理解していない事なんても十分すぎるくらいに理解した。




「どんな歌が良いのですか?」
「んー、やっぱミリオン飛ばすようなのがいい!」
「それは当たり前でしょう」
「お!言うな!ははっ!」



ドラマのストーリーで大切なキーワードとか入れたいなあ、と奏は呟く。
まず、自分たちの役がよく行くという設定の土手。
そしてこの今座っているこの机。
教室。




「なあトキヤ、俺めっちゃ浮かんできちゃった」



返事をもらう前に歌い始める。
考える時間はなかったはずなのに歌詞も、メロディもほぼ完全な状態で。


「こんな感じ?」
「…いい曲ですね」
「そうか?」


トキヤは作詞と作曲を同時にやってのけた奏を凝視した。
この曲なら歌いたいと思った。



「今の奏くんが作ったのかい!?」
「は、はいそうですけど…」



いきなり二人の間に割り込んできた男は馴れ馴れしく奏に話しかけると、そうかそうか、と一人納得したように頷いた。



そこからは本人達すら付いていけないスピードで話が進んで行った。
結局作詞も作曲も二人でやることになったのだ。
普通ならあり得ない。


「一ノ瀬はどうだ?」


トキヤのマネージャーがトキヤに聞いた。
それにトキヤは構わない、むしろやらせてほしいと答える。
そして奏の意見を尊重する、と付け加えた。

横目で奏と奏のマネージャーが話しているのを見る。


「奏はやるよな?」
「……はい、」
「…、…」
「………、………」


いつものように明るく軽い頼まれ事を頼まれたかのように返事をするかと思えば奏から発せられた声は暗かった。
その後も声を抑えて話し続けていたが、聞こえなくてもわかった。


「(…今日は元気がないですね…)」





「奏はあまり乗り気ではないのですか?」
「え?」


聞きたい事を無理して我慢しておくような性格ではないトキヤは自分の隣に戻ってきてぼふんと座った奏に即問いかけた。



「いや?」


しかし奏はどうしてそんな事を聞くのかと顔全体で表しながら返す。
ペットボトルのキャップを緩める。


「俺さ、実は歌うのが好き」
「…そうですか」

「でももっと曲作るのは好きなんだ」



誰にも言った事ねえけど!とはにかみながら奏は言った。
これまで歌手活動を行ってこなかった奏にとっての始めての公に公表される歌を、自分の好きなようにできる。
他にも思う事はあるものの、奏にとってそれは嬉しいことだった。

溢れて止まらないフレーズ、メロディ。
我慢できずに口ずさむ奏。
トキヤの手は本人も無意識のうちに伸びていた。


「よかったですね」


柔らかい髪を上から軽く叩いた。
いつもは意識して上げる口角が緩やかに自然に上がる。



「奏が作るのなら良いものが出来上がるはずです」
「トキヤは一緒に作ってくれないの?」
「わたしには作曲はできませんから。もちろん協力はさせてくださいね?」
「…へへっ、じゃあ歌詞はトキヤ担当な!」
「いえ、一緒に、でしょう?」



時間はたくさんあるのだから、と続けられ奏は一瞬拍子抜けした後、早速曲作りだ!と意気込む。


「十分後には撮影が始まりますよ」
「十分もあんじゃん!ねえ、誰か紙とペンちょーだい!」

「…全く、」



椅子を近づけて紙に単語を書きなぐって行く。
驚くほどに一致するフレーズにトキヤは曲の完成を想像してまた笑った。




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