ここ何日か奏と話してみてわかった事。
食べても太らない体質なこと。
甘いものに手を伸ばす癖に一瞬躊躇ってコーヒーを飲むこと。
いつの間にか話題の中心になっていること。
悪戯が好きで、よく仕掛けては怒られていること。


笑顔が絶えないこと。






偶に思いつめた表情で自分を見ていること。








撮影は順調に進んでいた。
といってもまだほぼ何もしていないようなものだが。
打ち合わせをして、イメージを固めて、衣装を話し合ったりして。
必然的に談笑の時間が長くなっていた。
珍しく長期に渡る撮影になるため、そこまで焦らなくても良いことと、長期になるからこそスタッフ含め皆で仲良くなっておいて損は無いだろう、と。
きっとそういうことなのだろう。








「うおー!トキヤ!見ろ見ろ!今日の弁当すげー!」
「私にも同じものが配られています。わざわざ見せなくてもわかります」
「うまそ!なあもう食べていい?あ、おけ?っしゃあ!いただきまーす!」
「…騒々しいですね」






あんなに憧れていて、最初は粗相の無いようにと気をつけていたトキヤではあったが、もはや今となってはそんな頃の事は信じられないくらいに奏への態度は変わっていた。
憧れから、友情に。
奏の持っている気質だろうか、奏が騒いでそれにトキヤが冷静に対処するというのがお決まりのパターンになりつつあった。






「あ!マカロンだー…」






弁当を食べている途中に、共演者の一人から差入れられたマカロンにきょうみを示す奏。
トキヤが食べ終わってからですよ、と釘を刺したらわかってるって!と食い気味に返って来たのを周りにいるスタッフ達がクスクス笑う。






「なんだか親子みたい」
「ええ、手のかかる子供を持った気分です」
「んだよー、最初は緊張してんのかがっちがちだったくせによー」
「ふふ、でも奏くんもいつもよりテンション高いよね」






やっぱり同い年の子がいるっていうのは楽しいのかな?と大人のスタッフさんに言われて反抗する事もできずがつがつと弁当を掻き込む奏と対象的にトキヤはゆったりと進めていた。








「ご馳走様でした!超美味かったです!…な、マカロン食べていい?」






奏はどん、と勢いよくトレーを机に置き、大きい声で感想を言うと子供のようにトキヤの顔を覗き込みそう聞いた。
それに対してトキヤが仕方が無い、とでもいうようにどうぞ、お礼もちゃんと言うんですよ、と許可を出すと俊敏な動きで奏は包装を解き始めた。
その動きに少し目を大きくしたトキヤではあったが、まあいつもの事だ、とまた自分の弁当に集中し始める。


カロリーも少ないようだし、味も見た目もいい。
これは真似してみる価値もありそうですね。


心の中に何を使っているのかをメモしていると奏が叫び始めた。
包装を解き終えてやっとマカロンに辿り着けるらしい。
思わずトキヤは奏に目を移す。






「うまそ!マカロンありがとうございまーす!食べていいっすか?」
「どうぞー」
「いただきます!…」






これだ。
奏は見た目によらず甘いものが好きなようだ。
弁当は豪快に食べるくせにスイーツとなると黙って小動物のように食べ始める。
今もマカロンだけを見つめてサクサク食べ進めて行く姿はまるでリスのようで。


トキヤは奏の事を男らしいと思っていたがそれは早々に覆されていた。
さっきのように小首を傾げてみたり、甘いものが好きだったり食べ方が小動物のようだったり。
でも本人は無意識だろうが弁当をがつがつ食べたりわざとブラックコーヒーを飲んでいたり隠している。








「(…そんなところも可愛いですね…)」






いつの間にか頬杖をついて奏を見ていたトキヤは自分が何を思ったかを自覚してはっとした。
今、自分は奏を可愛いと…。
その後、何を思ったか。
まさか。






「んだよトキヤー欲しいなら言えって」
「そ、そんな事一言も…っ」
「美味いだろ?…あ、うマカロン?」






寒いかー?と言う奏によって口に無理矢理詰め込まれた紫色のマカロンはトキヤには甘かった。




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