少年には、憧れのアイドルがいた。
自分を偽り、押し殺し、そうして人によって作られたアイドル像を素でやってのける本物のアイドルが。
HAYATOとして共演した時には内心緊張しながらも彼に近づき、話しかけた。




そして思った。






生まれながらのアイドル。
それが彼だ。








全てが自分と違う。
こんな、自分を偽り続けている自分とは。
内面から輝きを放って、周りにいる人を明るくする魔法のような人だ。








いつか、いつか自分が一ノ瀬トキヤとしてこの世界に入る事ができたなら、その時は、その時こそ宮原奏のような存在になってみせる。






少年、一ノ瀬トキヤにとってのアイドル宮原奏とは、同年代のライバル的存在でありながら、憧れであり、目標で。


そして希望だった。


自分もいつか、とより確かな夢を持たせてくれた。
あやふやな夢なら辛さに負けて諦めていたかもしれない。
彼がいなかったら努力した先に本当に目指しているものがあるのかわからなくなっていたかもしれない。
しかし、彼の存在そのものが一ノ瀬トキヤの理想像にかなっていたから、現実に、そして近くにいたから諦めないで来れた。






残念ながらトキヤが奏に会ったのはたった一度の共演の時だけだった。
それでも彼の事を忘れる事はなく、どんなに辛い時でも今を乗り切れば、とひたすらHAYATOを演じ続けた。






そんなトキヤに転機が訪れる。






シャイニー早乙女と出会い、早乙女学園に入学した。
七海春歌とパートナーを組み、彼は変わった。
様々な困難を乗り越え、苦悩し、そしてHAYATOと決別した。
ようやく一ノ瀬トキヤとしてデビュー出来る事が決まった。










ああ、これで私はHAYATOとしてではなく一ノ瀬トキヤとして歌う事が出来る


一ノ瀬トキヤとして、彼に会う事が出来る








叶う事は無いのかもしれない、と薄々感じた事もある夢が、実現しようとしている。
それは今までに感じた事の無い高揚感だった。
次第に仕事も増え、トキヤはやりがいや充実感と共に確実に幸福を感じていた。
信頼出来るパートナーが作った自分の歌を歌い、早乙女学園で出会った友人たちと共演し、ついにドラマの主役も出来る事になった。






受けた仕事には万全の準備で取り組みたい。
完璧にこなしてこそ、意味がある。
そして、自分は本物のアイドルになってみせる。
受け取った台本をめくり、キャストを確認してトキヤは目を疑った。




今回はW主人公であるとは最初から知っていた。
そしてトキヤの隣に書いてある名前は、トキヤが憧れていた、ずっと目指していたその名前だった。










「…宮原、奏」








いくら目指していた人物だとはいえ、自分が劣る訳にはいかない。
より気合いをいれてトキヤは台本を読み込み始めた。
その手には無意識に力が入っていた。




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