神の子の不可侵領域

一人目:男装最強少女






お昼休み。


昨日は下駄箱で会った子がわたしのことを普通に覚えていたのでそのまま元の教室に行った。
華央をはじめとするクラスメートの皆がやっぱりわたしのことを覚えていてどこか嬉しくなった。

皆が普通に接してきてくれている手前、感動の再会を話題にする事もしなかったし、何よりテニス部は面倒臭い事態に陥っている。

昼休み開始のチャイムと共にうちのクラスにやってきた幸村くんの顔を見た華央がさりげなく慰めに行っていたのできっと凄く深刻なんだと思う。
いつの間にかわたしの隣に座っていた柳さんはそんな二人を前に我関せずといった様子で美味しそうなお弁当を広げていた。



「ねえ昨日の子どうなったの?」
「…顧問に丸投げしたからね。流石に入部はしてないと思うけど…」

「なあ幸村!」




バン!!と大きな音を立てて入ってきた子は何故か男子生徒の制服を着ていた。
笑顔を絶やさない幸村くんが真顔になった瞬間をばっちり捉えたのでこの子が例の問題になってる子かな、と悟った。
入部って、マネージャーになりたいのかな。



「柳さん」
「なんだ?」
「わたしも言えば男の子の制服もらえるかな?」
「…欲しいのか?」
「んー…一回くらいは着てみたいですね」
「そんなに言うなら今度俺のを貸してやろう」
「え!柳さんのは大きすぎますよ」



ふっ、だろうな、と小さく笑う柳さんは絶対私のことを馬鹿にしていると思う。
むう、と睨みつけてみたけど軽くあしらわれて終わった。




「だから!なんで俺はテニス部に入れないんだよ!?」




久しぶり?でもないけど、むしろ別れて寝て起きてすぐに出会ったけどやっぱり気持ち的に久しぶりの柳さんとの会話を楽しんでいたのに教室中に女の子にしては低めの声が響いた。
それは幸村くんに向けられていて。
テニス部の男子はなんて事を…!と慄いていた。
そうだよね、自殺行為だよね。



「…顧問が言ったんだろう?じゃあ俺にもどうする事もできないよ」
「そんなわけないだろ!?」
「いや、だって俺ただの部長だし」



ただの生徒だからさ、とこんな時だけ子供を主張する彼はなんだか疲れた顔をしている気がした。
でも笑顔は保っているから凄いものだ。



「俺は!…俺は立海を全国優勝させるためにここに来た」
「は?」



しかし決心したように重々しく言葉を紡ぎ出した女の子に流石に目を大きく開いていた。
ただ事ではないと感じたのか柳さんも幸村くんの方に視線をよこしている。



「このままじゃ、お前らは青学にもう一度敗れる。それを阻止しに来たのが俺だ」
「随分な事を言ってくれるじゃないか」
「そう思うだろうな、でも本当の事だ」



少し考えた後、すこし席を外す、柳もついて来い、と幸村くんは席を立った。
幸村くんは華央の腕を取っていたのであれ、わたしはどうすればいいんだろうと不安に思ったけどそこは柳さんがついて来い、と言ってくれたので無事あの場に取り残されることはなくなった、




「…蓮ニ」
「なんだ」
「俺あいつもうやだ…」



人の来ない廊下に四人で来た途端華央をぎゅう、と抱きしめた幸村くんは疲弊しきっていた。




「あれ男じゃないよね?」
「少なくとも俺は女であると思う」
「わ、わたしも!」
「女の子だよ、多分」
「だよね、お前女だから無理だよ、とか言っていいよね?」
「いいんじゃないか」
「ほらまたそうやって蓮ニは自分と関係ないからって適当に返事して…部長だからって入部許可していいわけじゃないんだけどらなんでわかんないのかな、つか常識じゃないの?」



もうテニス部面倒臭いのいっぱいなのにまた増えるとか勘弁してくれ、と言う幸村くんを華央が必死になだめていた。




「では今日一日特別に参加を許可してそれで決めてはどうだ」



そんな事していいの?と柳さんに聞いたらまあなるようになるさ、と平然と言われた。
なんでこの人こんな動じてないの?
テニス部の事だよ?



テニスが自分達より上手くなかったら、テニスの事をわかってないのに俺達が負けるとかわかるわけないよね、と無茶苦茶な理論を突き通して拒否する気らしい。
華央が上手いかもしれないけどそれでも精市の方が上手いに決まってるじゃん!と励ましていた。
男女の差があるからきっと負けはしない、この場の誰もがそう思っていた。





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