神の子の絶対不可侵領域

一人目:男装最強少女






「夕凪瑞樹だ。よろしくな!」



神の子は思った。
何だこいつは、と。













愛妻家(正確には結婚していないので妻ではないが、周りにはそう評されている)幸村は自分のクラスに転入してきたどう考えても女子にしか見えない生徒から逃げるように3Bへと足を運んだ。
彼女の顔を一目見る為に。



「…華央!」
「あれ、精市。どったの?」



いつものように藍とじゃれている自分の彼女を見て安心した幸村はクラスに足を踏み入れる。
華央の前の席の椅子を勝手に拝借して後ろ向きに座る。
幸村の神妙な面持ちに華央はまた何か変な事を言い出すな、と思いつつも様子を聞いた。




「…なんか変な奴がいるんだけど」
「へえ」
「…反応薄くないか…?」
「いやだって精市気づいてないかもしれないけどさ、テニス部は変な奴らの巣窟じゃん」


「あ!幸村だよな?ちょっといいか?」



無理して出したような低い声がクラスに響く。
幸村はぎょっとして華央を自分の後ろに引き連れながら廊下に出た。



「…何か用かい?」
「ああ。俺、男テニに入りたいんだけど」



幸村はあまりの事に驚愕したが後ろで華央がえっ、と小さく呟いているのが聞こえて意識を取り戻した。
この人は自分の性別を理解していないのか。
幸村は賢かった。
賢い故に気を使ってしまったのだ。
相手をむやみに傷つけまいと。




この子、もしかして性同一性障害ってやつ…?

お前女だから無理だよ常識で考えなよ、とか言ったらだめだよな…?




一瞬で考えを巡らせた後、綺麗に笑みを顔に貼り付けて言った。




「俺はただの生徒だからね。そういう事は顧問に言ってもらわないと」



つまり先生に丸投げしたのだ。
第一入部届けを持っているのもそれを出す相手も顧問の先生であるのだから普通に考えて真っ先に部長のところにくるはずなどないのに。



「いや、幸村が部活仕切ってんだよな?」
「ま、まあ部長だけど」



だめだこいつ話が通じない奴だ。
真田とか近くにいればいいのに。
そう願ったが幸村の近くにはあいにく誰もいなかった。



「ねえ華央ー」
「んー?なに藍ー?今行くー」



精神安定剤の役目を果たしていた華央もあっさりと自分から離れ藍とまた遊び始めた。
俺だってできる事ならあそこに混ざりたい。
丸井はともかく仁王は気付いているのに面白そうにこっちを見ている。


なんとか奴に話をわからせ、職員室に行くように促すとにやにやと笑いながら仁王が話しかけてきた。
幸村は殴りたいと思った。




「マネ志望か?」
「それならまだ良かったんだけどね」
「ならなんじゃ?」
「選手の方だよ」
「は?あいつ女じゃろ?」









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