神の子の絶対不可侵領域

一人目:男装最強少女





「おっす精市!元気ねえなあ!」



いくら神の子と恐れられていたって、立海テニス部を仕切っていたって、大人びていたって、中学生は中学生。



「…おはよう、藍」
「お、おはよう幸村くん」
「華央見なかったかい?探してるんだけど…」
「さっき教科書貸してもらうって走ってってたよ」
「そっか、ありがとう。また来るよ」




神の子は転入生を総スルーし始めた。
もともと話しているとは言えなかったけど、そこにいないかのように扱い始めた。




「お、おい精市…」




いくら転入生が狼狽えても何も見えていない、聞こえてない。



「…まあ、いつか何とかなるだろう」
「柳さんは何もしないんですか?」
「どうしてもそうしなければならなくなったら、な」
「…嫌そうな顔してますね」
「話が通じない相手は…なんとも言えんな」




もともと幸村くんだけにずっと話しかけてた転入生はこれといった友達ももちろんできていないらしく。
つまりは完全に誰にも相手されなくなってしまったのだ。
この状況でも幸村くん以外に絶対話しかけないのだから肝が座っている。



そして、全てが積もり積もって。






「後輩たちも不満を表に出すようになった」
「え、それ平気なの?」
「仕方ないさ、そう思われるような行動をしているんだ」
「ルールもわかってないのに指示出されても誰も聞こうとなんて思えないだろ?赤也もいつも悪魔化する寸前だ」
「うわー…」
「1番のお気に入りはもちろん精市だがな」
「…本当、良い加減にして欲しいよ」




むす、と拗ねた顔で頬杖をつく幸村くんが最近の部活の風景を説明し始めた。

レギュラー陣が練習試合を終えるとすかさずアドバイスをしに駆け寄って来るけど、誰も彼女の言葉に耳を傾けず幸村くんの所に直行して来るから結局幸村くんが相手しなきゃいけないとか。




「蓮ニが間に入るとかしてくれればいいのに」
「しないんですか?」
「ああ、しない」



入ってきたばかりの不審すぎる転入生と、信頼している部長。
部員がどちらについて行くなど火を見るよりも明らかで。



「俺だったら来れないよ、こんなことされたら」
「…私も、無理だな…」
「いや、俺は藍を無視することなど無いからな」
「や、柳さん…!!」
「やめて今本当にそういうの。今その流れ必要だった?」





と、いう話を昼休みにずっとしていた日から数日。








教室でも、部活でも相手にされない転入生は、



「…残念だな、俺は立海のことを思って…」
「さあ、次はストロークを見ようか」
「…っ!…あんな釣り合ってない彼女までつくって、精市は何考えてんだ?」




神の子の逆鱗に触れてしまった。




「誰のことを言っているのかな?」
「わかんねえのかよ、あの華央って子だよ」
「釣り合わないって?」
「そうだろ。あんなテニスのこともわからないような奴。つか部長のお前が女に惚けてるようじゃ…俺は…」
「人望と人格が最底辺にある君にそんなこと言われるとは心外だなあ。っていうか、俺って言ってるけど君のそういう態度にみんなどう扱えばいいか困ってることも気づけないのか?」



その後もいつもより低い声で柳が止めるまで不満を言い続けたらしく。



転入生はその場から走り去った。




「あーーーやっと元に戻るぜぃ!!おーいジャッカルーダブルスしようぜ!」
「相手は俺らがするぜよ。な、柳生?」
「ええ、もちろんです」
「柳先輩!!俺と試合してくださいよー!」



その後の部活は大変楽しかったそうで。




「一体何様のつもりだったんだろうね」





晴れやかな笑顔で報告してくださいました。







しかし、これがまだまだ始まりに過ぎないということに、誰も気づいてなかったのです。







神の子の絶対不可侵領域、完
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テーマ「人外ファンタジー」
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