クラスの机の中に忘れ物をした。 部室で帰りの支度をしとった時にやけに軽いバッグを見れば筆箱やオーディオ、さらに教科書まで全てが入っていなかった。 ぶっちゃけ帰っても勉強なんてせんけど、オーディオが無いのは嫌や。
「…はぁ、」 「お、どないしてん財前!着替えんで帰るんかー?」 「教室に忘れ物してもうたんで、取りに行ってきます」 「そか、急ぐんやで」
下校時刻迫っとるからなー、と自分の支度を終えて金太郎の世話をしている部長が言うので了解っすわ、と答える。 浪速のスピードスターなら一瞬で取りに行って帰ってこれるっちゅー話や!と聞こえたので頼もうかと思ったがあの人が俺の席を知っているはずがない。 というか浪速のスピードスターのわりに着替えるの遅いんすね。 うるさい部室を後にして、俺は教室まで走り出した。
「…ん?」
下校時刻も迫っているのにまだ明かりがついている。 スピード狂の先輩とは違ってビビリではない俺は戸惑いもせずに教室に足を踏み入れた。
「は?」 「ん…」
そこには俺の幼なじみが寝とった。 スヤスヤと寝息を立てて、それはもう気持ち良さそうに。 こいつならまあこんなことがあっても驚かない。 半分呆れながらも軽くなまえの肩を揺すって起こしてやる。
「んー…お母さん?」 「ダレがお母さんや」 「えー…あ、ひかるくんだあ」
寝起きのぽや、とした表情で何が嬉しいのかにこにこ笑いながら肩を揺すっていた俺の手を取って小さく降るなまえ。
「ひかるくんどうしたの?」 「忘れ物したから取りにきたんやけどお前何してん」 「数学のプリントやってたら、寝ちゃったみたい」
えへへー、とまた笑うなまえはふいに今何時?と聞くと自分で勝手に時計を確認して慌て始めた。 あわあわと帰りの支度を始めたはいいものの、ばたばたと教科書を落としたり落ち着きが無さすぎるのでおれも手伝ったる。 ありがとー!と言われたが気恥ずかしくて別に、と返した。
「あ、校門で待っとき」 「え?」 「家まで送ったるから、校門で待ってるんやで」 「ひかるくんと一緒に帰れるんだー!」
昇降口で待ってるね!と言ったなまえに眩暈がしそうになった。 今校門て言ったんやけど。 こいつのこんなところはとっくの昔から知っているので気にはせんけど。 おん、昇降口でな、と念を押す。 どこで待ってるのかなまえに言わせてみた。 おん、そうや昇降口やで。 こいつといると俺は部長の気持ちが痛いほどよくわかる。
「珍しいねー誘ってくれるの」 「なまえは一人で帰らすといつまでたっても家につかなそうやから」 「えーそんなことないよ着くよ」 「とにかく俺がなまえを家まで送ったるから」 「ありがとー!じゃあわたしはひかるくんを家まで送ろうかな」
夜遅いから心配なんだよーと至極当然と言った様子で言い放つなまえに俺はどうしたらいいかわからなくなった。 俺がなまえを送るのであって、それをまた俺の家まで送られたら今度はまた俺の家まで来たなまえをなまえの家まで送ってやって…。 あかん。
「それじゃ意味ないやろ…」
まあなんとか言いくるめてなまえには俺を送らずに家に帰ってもらうとして、今は浮かれているのかふらふら歩くこいつから目を離さないようにするのが先決や。 部活も疲れたけどこいつの相手も疲れるわ、とため息を吐こうとしたが俺の方を振り向いたなまえが楽しいね!と笑ってきたのでいつのまにか吐くはずだったため息は何処かへ消え、俺の口角は珍しく上がっていた。
20130418
天然… 難しかったです! 不思議ちゃんぽくなってしまったような… そして長らくお待たせしてしまって申し訳ありません! 楽しんでいただけたら幸いです。 リクエストありがとうございました。
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