四天宝寺じゃ知らない人の方が圧倒的に少ない蔵くんは今はわたしの彼氏で。
でも現彼女より元彼女の方が認知度が高いっていうのが現状。
その訳はその元カノは今も四天宝寺男子テニス部のマネージャーで、よく部長の蔵くんと話しにクラスに来たり、部活中も部活終わりもよく話している。
それは学校にいる時は全然話さないで、夜に時々するメールくらいでしか蔵くんと繋がっていられないわたしよりも断然彼女らしい姿だと思う。
明るくて、可愛くて、仕事もちゃんとこなしてて、気さくな彼女は蔵くんといても引けをとらない。
わたしといるとどこかぎこちない様子の蔵くんはあの子といるととても楽しそうに笑って話してる。



「…はは、なんだぁ…」



態度で示されていたんだ。
わたしのことは好きじゃないって。
まだ元カノの方が、あの子の方が好きなんだって。
そんなことにも気付かないなんて、馬鹿だなあ。





最後のお話をしようと、部活終わりを勝手に待ってた。
どんなに寒くても待つ時間は苦じゃなかった時もあったっていうのに、今はこんなにも長くて、こんなにも苦しい。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴ったのを聞いて、わたしは部室に足を運んだ。




「ねえ、蔵ノ介」
「ん?部誌ならもう少しやけど」
「あのね、わたし、まだ蔵ノ介が好きなんだぁ…」



どくん
思わず肩が跳ねた。
きっとこういう時は邪魔しちゃいけないのに、蔵くんがどう返すのかが気になるのに、わたしの腕は勝手に扉を叩いてた。



「!?…はい、あいてますよー」
「…蔵くん、いますかー…?」
「…っなまえ?」



蔵くんいますか、なんて
いる事はわかりきっているのに他に何をいえばいいかわからなくてそういうしかなかった。
少し話があるんだけど、と言えば困ったように今日はこいつ送って行くから送れへんねん、すまんなと返されたので少しでいいからちょっと話そう?と切り返すと途端に苦笑いだった顔が強張った。



「ええけど…そんな急な話なん?」
「急じゃないけど…今話したいんだ」
「わかった、行こか。ちょっと待っててな」
「い、いや一人で帰るし…本当に」



彼女のわたしより、この子を送るんだ、なんて可愛くない事を考えながら蔵くんの後に続いて出ようとすると、腕を掴まれた。
蔵くんはわたしより前に部室から出たわけだから、必然的に一人しか出来ないわけで。



「な、なあ、さっきの話、聞こえた…?」


「ごめん、なんの話かわからないけど、部室から声は聞こえなかったよ」




おさるおそる聞いて来たあの子はわたしがそういうとホッとした表情で小さく良かった、と呟いた。
ごめんね、聞こえていたんだよ。
でも、もうさよならしちゃうから。
わたしのことなんて気にしなくたって良かったんだよ。






「で、どないしたん?」



人気の無いところに来たわたしたちはどことなく目を合わせ辛くて、視線を彷徨わせながら話を切り出した。



「えっと…蔵くんと、別れたいなあって」
「…それは、何で?俺がなんかしたから?」
「全然!全然違うよ!蔵くんのせいじゃなくてね」



いや、まあ蔵くんのせいなんだけどさ。
せいっていうか、なんていうか。
それなりに苦しいけど辛いけど本当は別れたくないけどここは蔵くんを想って、っていうわたしの勝手な自己満みたいなところもあるからわたしのこの性格のせいっていう見方もあるけど…




「…なまえ、他に好きな奴ができたんか。誰や、どこのクラスの誰や」
「え」


「目移りさせた俺がやっぱ悪いんやろか。俺なりに大事にしてみたつもりやったんやけど…」



淡々と用意されたセリフのように言い続ける蔵くんはなんだか怖かった。
表情も崩さず、ただ口だけ動かしている。




「い、いやわたしが他の誰か好きになったとかじゃなくてね、」
「じゃあ!…別れる理由なんてないやんか」
「あのあのそれはえっと…」
「お互い好きどうしやないん?」



肩を掴まれて身動きが取れなくなる。
あれ、蔵くん、好きどうし…?
直接じゃないけど好きって言われた…?




「蔵くん蔵くんはあの子が好きなんじゃ…」
「あの子?」
「マネージャーさん」
「!ちゃう!俺は、なまえのことが好きなんやで…?」
「…?」
「ほんまやって!…なんで伝わらんの…」



え、だって楽しそうじゃないじゃない。
予想外の展開にてんぱってるのか、逆に冷静になって来た。




「それは…謙也が……」
「え?」
「俺がなまえといる時はだらしない顔しとるからって…」
「そんなことないよ」
「いや自覚してんねん口元がにやけてくんのわかってん、で、小春も男は少しクールなくらいがかっこええって言うから…」




誰だこの男は
しょぼん、と音がつくくらいに肩を落として懺悔するように語りはじめた。




「好き好き好きめっちゃ好き、別れるなんて言わんで」
「うんごめん」
「ほな言って?」
「…なんて?」
「俺と付き合うって、俺が好きって言ってや」
「え」
「…頼む」



蔵くんがこんなだって知らなかったけど、別に嫌じゃない。
むしろ思いのほか愛されてんだなー、なんて実感して、自分は変な風に考え過ぎてたのかな、て思った。
思わずくす、と声が漏れてしまってそれを蔵くんが拗ねたように見る。
その顔もなんだかかわいくて面白くて、さらに笑ってしまった。




「蔵くん好き、これからもわたしと付き合っててね?」





20130408






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