思えばあの時は少し気が立っていたのかもしれない。 何故か調子が悪くて俺らしくもないミスを連発していたり、その他にも仁王はサボったまま帰ってこないし向こうで弦一郎はまた部員を殴っているし、赤也は試合をしつこくせがんでくるし…。 何より、焦りが酷かった。 関東大会の結果、全国大会での負けられないリベンジ、ブランクを埋めるための練習 王者立海の部長である重圧 いつもの光景のはずだった。 そう、いつもの俺ならまたやっている、と笑って場を収める事も造作なかったのに。 怒鳴るようにして注意している自分がいた。 俺が怒鳴るのはきっとあれが初めてで、コート中が静かになったのも気付いていたがそれさえも腹立たしくで練習を促した。 タイミングが、悪かった。 「…あの、幸村部長、ここなんですが…」 「…これはこの前の試合のだね、こんなのもできないのかい?」 「…すいません」 「何ヶ月マネージャーをしていた?全く身についていないようだ」 「…はい」 「人に聞く前に自分でちゃんと考えたのかい?この程度もできないマネージャーなんて」 この立海に必要ない 溢れ出るように全ての怒りを自分の彼女に、なまえにぶつけた。 言い返しもしないなまえに余計に腹が立った。 その後も止まらない俺を蓮ニがようやく止めてくれてその時は終わった。 その日、帰ってからものすごく後悔した。 彼女を傷付けるなんて、どうかしている。 完璧に俺の八つ当たりだ。 明日謝らなければ。 重い体を引きずって次の日の朝練に出向くと、いつもは張られていないネットが全て張られていて、ボールも全て各コートに一カゴずつ置かれていた。 不審に思って部室に入るとなまえがノートに何かをまとめていた。 「あ、幸村部長、おはようございます」 「あ、ああ、おはよう」 「すみません着替えますよね、今出て行きます」 「…それは?」 「このノートですか?試合の記録です」 簡単にノートを片付けて部室を出て行こうとするなまえの腕を掴む。 昨日の事、謝らなければ。 「すいません、ドリンクの用意があるので」 する、と腕からすり抜けて行った。 言いようのない喪失感を覚えた。 まあ、今はいい。 幸いなまえとは付き合ってもいるし部長とマネージャーだ。 話す機会なんていくらでもある。 しかし、いくら待ってもそのチャンスは巡ってこなかった。 部活中は準備が忙しいらしく話しかけてもすいません、と断られ、休み時間になまえの教室に行ってもなまえはいない。 帰りに待っていて話そうかと思ってもまだやる事がありますから、と強引に帰されてしまう。 最近見たなまえはただひたすら走り回っているなまえばかりだった。 そんなある日、なまえが熱を出したらしく学校を休んだ。 たまたま顧問の都合で部活が休みになったので、なまえの家にお見舞いに向かった。 「調子はどう?」 「…幸村…部長…」 「熱は下がったかな?」 「はい、お薬を飲んだおかげで大分楽には…」 「そう、良かった。それで、なまえ、話したい事があるんだ」 あ、はいこれ買ってきたんだ、となまえが前に好きだと言っていたゼリーを渡すが、なまえはそれを受け取らずに布団の中に潜ってしまった。 「嫌です!聞きたくありません!」 「なまえ?」 「ごめんなさい!役立たずなマネージャーでごめんなさい!」 「え?」 「もっと手際も良くします!ドリンクも、選択も、片付けも、全部全部…もっと頑張りますから…」 どんどん涙声になっていくなまえ。 「だから、別れたくないです!」 ば、と布団から出てきて俺に抱きつく。 辛うじて抱きとめはするものの、状況が、うまく掴めない。 「…なまえ…?別れるなんて…」 「…部長はわたしが使えないから、いつまでたっても役立たずで、少し頑張っただけですぐに体調悪くするようなできない子だから今日、言いにきたんでしょう?」 別れるって。 …マネージャーも続けさせては貰えないのでしょうか? 考えられなくなった脳に流れ込んでくるなまえの言葉。 思わずなまえを力一杯抱きしめる。 「ごめん、ごめんなまえ…!」 「部長、謝らないでください…わたしが」 「俺のせいだ…本当に悪かった」 ただの子供っぽい八つ当たりなんだ なまえはいつも頑張ってくれている それは俺だけじゃない、部員の皆がわかっていることだから やめなくていい やめないでほしい 自分の事を役立たずなんて、できない子なんて言わないでくれ 別れるなんて、絶対するわけないじゃないか 俺にはなまえが必要なんだから そこまで言うと、なまえは俺に抱きついたままわんわん泣き始めた。 良かった、とかこれからも頑張ります、とか…部長だいすき、とか。 「俺も大好きだよ」 「うぅ…はい…!」 「なまえに、全国優勝をあげるから」 俺の隣で笑っているんだよ、いいね? 20130404 リクエストありがとうございました! 幸村さんって喋り方がよくわからないですね笑 暖かいお言葉ありがとうございました! これから待機組をよろしくお願いします
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