愛をひとつまみ、ぺろり 柳




 「あー春だねー」
「そうだな」






休憩時間に花壇の淵に腰掛けて適当に話すことにした私たちは、本当になんの内容もないことをひたすら話していた。
蓮ニくんは理論派だからこういうことはあまり好まないかな、と最初は思ってたけど付き合ってみてから意外に楽しんでくれていることに気付いた。
ぶらん、と放り出してあった蓮ニくんの左手に自分の手を重ねると隣からふっ、と小さく笑う声がした。






「だめ?」
「いや、だめじゃないさ」






触れ合う程度に重ねるだけだった手は蓮ニくんが握ってくれたから行き場をなくすことはなかった。
ぽかぽか暖かい陽射しにこのままぼーっとしていたくなる。
でも蓮ニくんはそういうのしないだろう。
わたしも本当にサボれるほどの度胸は持っていないけれど。








「なまえ」
「ん?」
「…このままなまえが講義を休んでしまいたいと思っている確立、94%」
「うん当たってる」
「やはりな」






でもちゃんと出るよ、と続けて言うと蓮ニくんはいきなりわたしの手をつないだまま立ち上がった。
引っ張られてわたしも立ち上がると、蓮ニくんは口角をあげて言った。






「弦一郎にはばれないようにしないとな」
「え?」
「俺もサボりたくなる日はあるということだ」








行くぞ、と手を引っ張って大学を出る蓮ニくんに最初はびっくりしていたけど、次第にわたしも楽しくなって来た。
蓮ニくんの腕に自分の腕を絡みつける。






「珍しいな」
「そうかな?」
「ああ」






あいている方の腕で軽くわたしの頭を叩くとどこか行きたい所はあるか?と聞かれるけど、わたしは蓮ニくんがいるならどこでも良い、と返す。
少し悩んだ様子だった蓮ニくんは何か思い立ったようでくるりと方向を変えると駅に向かって歩き出した。






「どこいくの?」
「それは着いてからのお楽しみだ」








なまえはただ着いてくればいいさ、と切符を買ってわたしに電車に乗るように促す蓮ニくんの事をわたしは今日も好きすぎるほどに大好きだった。




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