ハート型に切り抜いた心臓をくれてやる 徳川





学生の頃からずっとやっていたテニスを職業にしたカズヤ。
過酷な練習を毎日こなし、その成果を確実に試合で出してきた。
遠征がとにかく多くて、なかなか疲れが取れなかったと思うけど、今日は珍しく一日休みらしい。

どこかに出掛けるという案も出たけど、わたしはカズヤにちゃんと休んで欲しいから断った。
少し怪訝な顔をしたけど、ぽん、とわたしの頭を軽く叩いて悪いな、と呟いたあたりカズヤ自身も疲れが溜まってたんじゃないかと思う。




さあ、甘やかしてあげようじゃない!





とは…思ったんだけど…



「なまえ」
「はーい」



なにか食べ物を作ってあげようとキッチンに向かおうとしたわたしをカズヤが引き止める。
つけようとしていたエプロンを椅子にかけてカズヤのところまで戻る。




「…何もしなくていい、今日は」
「え?」
「その…俺のそばにいて欲しいんだ」



少し恥ずかしそうに目線をそらしながら言うカズヤ。
こ、これは…甘えられてるんじゃないか…!?
うん、と小さく返事をしてカズヤの隣に座る。
ぼふ、とふかふかのソファに沈み込む。


右利きのわたしと左利きのカズヤではご飯を食べる時、座り方を間違えると腕がガツガツあたってしまう。
それでもう無意識にカズヤとは少しだけ距離を開けて座るようになっていた。




「もっとこっちにくればいいだろう」



ソファと背中の間に手を滑り込ませて腰を抱き、ぐい、とカズヤの方に引き寄せられた。
いきなりのことだったからそのままカズヤに寄りかかるような体勢になってしまう。


いつになくべったりとくっついている私たち。
…緊張するんですけど…
あんまりカズヤがこういうの好きじゃないと思ってたから…




「今度、また遠征が決まった」
「あ、そうなの?頑張ってね」
「ああ、今度は少し長くなる」
「そっか、体調には気をつけて」
「…それで、なまえについて来て欲しいと思っている」




向き合うように体勢を変えてそう言って来る。
ついてきてほしいって、それって…




「なまえは…寂しくはないのか」
「…カズヤがいない時?」
「そうだ」
「寂しいよ」

「俺も、たまらなくなまえに会いたくなる時がある。いっそ帰国してしまおうかと思うくらいに」











「なまえ、結婚してくれないか」







「…」
「今回の遠征だけではない、一生をお前と共に歩んでいきたい」
「カズヤ…」
「いきなりで済まないが、考えてはくれないか?」




カズヤが立ち上がろうとする前にカズヤの首に腕を巻きつけるようにして抱きつく。
涙も少し出てるけど、そんなの気にしない。



「着いてく!…ずっとカズヤに着いていくよ…!」
「なまえ…」
「大好きカズヤ…ありがとう、わたしすごい幸せ」



ぐじぐじと泣き出すわたしをぎゅうと抱きしめてくれる。
良かった
と小さく呟いたカズヤはわたしの耳元で愛してる、と囁いた後、とびきり甘いキスを唇にくれた。

20130326
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