乙女心を食す怪獣を蹴散らす 臨也





「なまえ、ここにおいでよ」




毎日のように入り浸っている新宿のマンション。
臨也はいつも忙しそう(慌ててるとかそういう仕草は一切ないんだけど手はいつも休むことなく動いてる)
だから私なりに気を使ってなるべく音を立てないように動いたり、波江さんのお手伝いをしたり、とにかく臨也に会いに来てるのに臨也とはそこまでお話することはできていなかった。


それが、今。


おいでよ、と臨也にしては優しい声と言葉で言われたままに近寄ると、腕を引かれわたしは臨也の足の間に。
つまりパソコンの前の椅子に座っている臨也を背もたれにするようにしてわたしは座っているのだ。



「わ、ねえ、ちょ…」
「恥ずかしいんだ?」
「あ、当たり前でしょう…!」



がし、とわたしの腰に腕を回してくす、と鼻で笑う。
いつもはうざ、と思うそれも耳元でされると威力は莫大で。
耳まで赤いよ?とわざと耳に息がかかるように囁かれて思わず身体をびく、とはねさせてしまう。




「なまえちゃんかーわい、」
「からかわ、ないでよー…」
「んー?からかってなんかないよ」
「じゃあどうしてこんな…」



お腹の周りをぐるっと回っている左腕に自分の手を添えると、さらにぎゅう、と抱きしめられた気がした。
さら、と髪をすくい上げては落として、手櫛で整えて、と意味のない行動を繰り返す臨也は本当に珍しい。




「なまえちゃんを甘やかしたくなったからかなー」
「な!」
「本当だよ?」



ちゅ、とうなじに唇を落とす臨也。
これは絶対からかわれてる…!と後ろを振り向くと見たこともないくらい優しい顔をした臨也がいて。
あまりのかっこよさにまた前を向き直した。
照れ隠しに黒い袖を引っ張ったりして遊んでいた手を臨也の左手の指と絡ませる。
こうを撫でたりしているだけだったのに、いきなり所謂恋人繋ぎで捕まえられた。

こ、これは本当に甘やかしてくれるのかも…?
こてん、と身体の力を抜き臨也にもたれかかる。
繋いでる手をなんとなく口元に持って行き、恐る恐る臨也の方を振り向きながら問いかける。




「…ねえ、臨也」
「ん?」
「ほんとに、甘やかしてくれるの?」
「…もちろんだよ」




やさしくふわりと掠めるように奪われた唇。
少し離れたと思ったらもう一度、今度は少し長めに唇をあわせられる。




「…いざや、…ん、」
「なまえ…」
「…、はぁ、いざや、好き」
「!俺も、愛してる」


「人より?」
「まさか、比べものにならないさ」
「あは、ほんと?」
「なまえを愛してるよ」
「臨也…」
「だからさ、なまえ、今は俺に愛されてて」




食べられちゃうんじゃないかと思うくらい強くて激しいキスが降ってくる。
ぐちゃぐちゃに暴れる臨也の舌にもう骨抜きで、臨也の手を強く握りながら息を吸うので精一杯だった。

その後も音を立てて動き続けるパソコンの前で私達はひたすらに口付けをかわしつづけていた。





ふと見れば波江さんはいなくなっていた。
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