「あなたには婚約者がいるのよ」



物心つく前から言われ続けていた言葉。

だから何の不満も感じなかった。

抗おうなんて思った事なかった。


でも、あなたは違うのですね





ハルちゃんとパートナーを組んで聖川の殻を破って行く真斗と許嫁ヒロインを思いついてしまった。
しかしありがちである。

受動的?というのですかね。
とにかく厳しい家に産まれて親や大人に言われる事を全てこなしてきたヒロイン。
そこに嫌だ、やめたいとかどうして、とか他の子は遊んでいるのに、とかそういう不満はない。
ただわたしはそういう星の下に産まれたのだから、そうするしかないのです。
それに対して真斗は聖川の家を継ぐ嫡男であるにも関わらず、早乙女学園に入学して行く。
自分の夢を実現するために。




「真斗様」
「…なまえか、どうした」
「いえ、何でもございません、ただ…」
「親に言われたから、か?」
「はい」
「…お前は、もう少し自分の意見というものを持ったらどうだ、いつも人に言われたから、と…。自分から動いた事はあるのか」
「…申し訳ございません」




望んでもいない婚約、そして相手が自分には考えられないような人柄であるがゆえ、いつからか冷たい態度ばかりとるようになる真斗。
婚約は解消したい。
ヒロインが嫌いというわけではないが、ただあのような態度は無性に腹が立つ。


早乙女学園に入学した真斗はハルちゃんとパートナーを組んで、ハルちゃんを好きになってしまったり。
その時もヒロインは実家で時折開かれる聖川家との食事会の時に少し話す程度しか関わりがない。




でも、ヒロインは真斗の事を慕っている。
それはもしかしたら洗脳かもしれない。
幼い頃から親に結婚するのはこの人だから、と言われ続け、通う学校はどこも女子校。
真斗以外の男性との関わりは父親や祖父、その程度しかないから。
でも、確実にヒロインは真斗の事が好きだった。






ずっと一緒にいたいわけではないのです。

愛を囁いてほしいわけではないのです。
ただ、彼の人が幸せなら。

アイドルになるという夢を諦めない彼の人はいつだって真っ直ぐ前を向いていた。

その瞳が好きなのです。

その姿勢が、ひたむきな努力が、たまらなく愛おしいのです。





早乙女学園を卒業した真斗は急速にハルちゃんと距離を縮めていく。
パートナーとして、人として、そして、異性として。
煩わしささえ感じさせる家の事を考えなくてもいい時間が心地良かった。
彼女の前では自分は一人の人間だから。



しかし転機は訪れる。
家からの命令で、ヒロインと真斗は同居することに。
いずれは結婚するのだから今からでもいいじゃないか、と。
でも、真斗はデビューしたての大事な時期だからまだ籍は入れずに。
同棲を始めて初日。
真斗はヒロインに言います。




「…悪いが、俺はお前を好きにはならない」

「いずれ、婚約も解消したいと考えている」




「…承知しております」



なんて返されるか予想もつかなかったけれど、それでもヒロインから返された言葉は意外だった。
承知している、と、彼女は言った。




「私は、真斗様の意に背く事は致しません」




ゆるり、花が開くように笑って。
その時は何も思わなかった。
話がすんなりと通って良かった、と、そう思うばかりだった。


同棲して最初のうちはやはり真斗は冷たくて。
必要最低限の話しかしない。
暴言を吐いたり、無視したりという事はないけれど、冷ややかな空気が漂っていた。

定期的に出かけている内に真斗はいろいろな事に気づく。
ヒロインは、自分の意見がないのではない。
何も教わっていないのだ。

所謂箱入り娘で、必要な習い事や礼儀作法は完璧に覚えているものの娯楽は何一つ知らない。
それでいてその事を当たり前だと思っているのだ。

外に出かければ周りを忙しなく見て、初めて見るものには素直に反応する。
以前よりも、なんというか人間らしくなってきている。

どこか行きたいところはあるか、と聞けば真斗様の行きたいところを、としか返さなかったなまえが初めて少し俯きながらおそるおそる行きたいところを自分から言えるようになった時は内心嬉しくなった真斗。


ちなみにハルちゃんとは良いパートナーに落ち着いた。
異性として好きだった時期もあるけど、今は人として良い関係を築き始めています。


そして気づく。
いつしか本当にヒロインの事を想いはじめている自分に。





迫りくる婚約の日。
婚姻届に記入をしよう、という日、真斗はずっと言えなかった自分の気持ちをこの機会にヒロインに伝えようと決心する。
きっとヒロインは自分が同棲初日に言ってしまったあの言葉を未だに信じているから。
今、俺が想っているのはなまえただ一人だと伝えよう。




「…なまえ、少しいいか」


リビングの机に婚姻届と万年筆を置いて自分はソファに座り、家事をしているヒロインを呼ぶ真斗。
ヒロインはそれに応じて近くまでいくと隣に座るように言われたので人一人分開けて座る。
それに苦笑した真斗は距離を縮めようとヒロインのすぐ隣に座り直そうとする。




「真斗様、これは…」
「…ああ、婚姻届だ。そろそろ書かなくてはなかない時期だろう。…これを書く前に言いたい事が…」

「真斗様、いいのです」



座り直そうと腰をあげた真斗に向き合うヒロイン。



「お父様と話をしてきました。真斗様、真斗様はこれを書く必要などないのです」
「な…にを…」
「婚約は破棄されました。真斗様はご自分の夢を叶えてください」



「真斗様の夢に、わたしの存在は足枷も同然です。だから、いいのです。わたしは、真斗様の夢が叶う事を願っております。…だから、だから…婚約は解消します」



「私は、真斗様の進む道を妨げたくないのです」



いつかのように、ゆるりと笑うなまえは咲き誇る花などではなかった。

花開く瞬間の希望に溢れたものでもない。




舞い散る桜の花びらだ。





某然とする真斗様を置いて部屋を出て行くヒロイン。
我に帰った真斗が家に電話すると婚約の解消は事実だった。


そこからは真斗に頑張ってもらいましょう。
ヒロインはレンと婚約させられちゃったり。
それを奪う真斗。
レンはヒロインに本気にはギリギリでならないと思う。


無事くっついた後は超日本!な家庭を築くのではないでしょうか。
男性をたてる大和撫子なヒロイン。
そんなヒロインに今まで知らなかった物を教えてあげるのが楽しい真斗。
大人しいヒロインがはしゃぐ姿が可愛くてしょうがない。






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