才能の開花しない女の子と一ノ瀬トキヤの話。

持ってる物はSクラスにいても何の間違いではないほどの物ではあるけれど、それをなかなか引き出す事ができない。
シャイニーはヒロインの才能をわかっているから今の実力では足りないもののSクラスにいれた。

本人は入れるとは思っていなかったけどテストを受けたら受かってしまってしかもSクラスで未だに信じられない。
それに周りは才能が花開いている人たちばかりで自分はそれに比べて何もできないので引け目を感じまくっている。


大事なパートナー決め。
シャイニーの思いつきによりくじ引きに。
そしてヒロインがペアになってしまったのはSクラスで群を抜いた才能を見せる一ノ瀬トキヤ。


人一倍デビューしたい願望を強く持っているトキヤはヒロインに辛くあたる。



「…一ノ瀬さん、見てもらってもいいですか?」
「…………作り直してください」
「、え…」
「作り直してくださいと言ったんです」



作っては直して、作っては直して。
ヒロインは作り直せ、とは言われるけどどこを、と言われないのでなかなかトキヤの納得の行くものができない。
それにトキヤに会える日も少ないですから。
何回も門前払いされて余計自信をなくし、塞ぎ込んで行くヒロイン。
歌いたい歌を作ってもらえない上に歯切れの悪い返事しかもらえなくて苛立って行くトキヤ。
どうしてこの程度の人がSクラスにいるんだ、と思ったりもする。


つまり二人の仲は最悪。


時々作曲している時にトキヤがハッとするようなメロディを歌い始めたりする。
それを何度か耳にしてしまってからはトキヤはより高い水準のものを求め始める。
ヒロインがいつもそれをできるわけではないのに。




「…いかがですか?」
「……はぁ、全くなっていませんね」
「…っ…すいません…」
「おいおいイッチー、その言い方は無いんじゃないかい?」
「レンは黙っていてください。これは私と彼女の問題です」




「…やる気が無いのですか?」
「そんなことっ」
「生半可な気持ちでは私が迷惑です」



「この前と何ら変わりが無いではないですか」
「…ごめんなさい」
「謝るだけでは何も変わりません」




本気で酷い。
ヒロインは必死で毎日遅くまで作曲。
部屋だと同室の子に迷惑だから教室に残ってひたすらピアノを弾き続ける。






夏休みに入って、その頃にヒロインのお世話をずっとしてくれていたひとが亡くなってしまう。
それはヒロインに作曲家になる事を勧めた人でもあって。

ショックをうける心とは裏腹に手はメロディを作り出し始める。
涙と共に溢れ出て留まらない。


死から立ち直れないまま夏休みは過ぎ、学校がまた始まる。
ヒロインの才能は皮肉にもヒロインの最大のショックによって開花されてしまった。



でも誰にもそれを相談する事ができない。
パートナーになんて、できるはずもない。
隠し続けて、曲を作り続けて。
夏休みでガラリと変わった彼女に周りは賞賛の声をかける。


Sクラスに相応しい才能だ。
前までとはまるで違う。
一ノ瀬と組むだけの事はある。


苦しめば苦しむほど、質の良い曲が出来上がる。
楽しんで作っていた時は最高の出来だと思っても評価されなかった自分の曲が、曲を作るのが苦しくてもがきながら苦し紛れに作ったような曲が高い評価を受ける。
嬉しいはずなのに、嬉しくない。


それに



「…わたしの歌を見くびっているのですか。もう一度作ってきて下さい」


「……はぁ、もういいです」




一ノ瀬さんは一度も褒めてくれた事が無い。
実はトキヤもヒロインの作る曲が良くなって文句のつけどころも無くなってきたのはわかっている。
でも、どうやってそれを伝えればいいかわからなくなっていた。
今まで、あんな態度をとっていて、今更どうやって褒めてやればいいのか。
だから心にも無い言葉を言ってしまう。





「…だめですね」
そんな事無いのに

「半年経ったというのにまるで変わっていませんね」
違う、

「こんな歌」
彼女の歌を





「歌いたいと思えません」

一番歌いたいと思っているのは自分なのに





曲の質は高まって行くばかり。
だから誰もヒロインの心が壊れてしまった事に気付かない、気付けない。
周りの期待は高まって。
トキヤからは冷たい言葉を浴びせられ。
曲を作りたいとも思えなくなった。
なのに手が止まらない。




「…………助けて…」








遂に食べ物も食べられなくなってしまうヒロイン。
トキヤといる時に倒れてしまって、看病をするトキヤ。
よく見てみれば白すぎる肌に、どうして気づいてあげられなかったのか悔やんでいると、ヒロインが目を覚ます。



「!気付きましたか。あなたは自分の体調も管理できないのですか?廊下で倒れたのです。原因は…!どこに行くんです!?」



「…ピアノ…」


「あなたは栄養失調で倒れて…!」



トキヤの制止の声も聞こえなかったかのようにふらふらと立ち上がり、ピアノを弾き始める。
虚ろな瞳で鍵盤を叩く。
次々と出てくるメロディはどれも捨てがたいもので。

なのにトキヤは嫌な予感がしてヒロインのピアノを止める。



「やめてください!!」
「…作曲……しなくちゃ………また…また……」
「また何です?!いいから、早くやめなさい!」
「…一ノ瀬さんに……怒られちゃうから……わたしが…落ちこぼれだから…」




トキヤはここで気付きます。
ヒロインの心はもうボロボロだと。
それは自分がやったも同然だと。


ハッピーエンドならトキヤがヒロインを励まし続けた甲斐もあってヒロインはまた作曲を楽しめるようになりました、っていう。

バッドエンドなら、優勝はできたもののどう頑張ってもヒロインは何の感情もないロボットのまま。
ストレスのせいで耳も聞こえなくなって、作曲が、できなくなってしまう。
聞こえないはずなのに毎日毎日寝て起きて食事も満足に取らずピアノに向かい、適当に鍵盤を叩くヒロインを救う事も見捨てる事もできないトキヤ。



ぶっちゃけ真斗とかに取られても良い。
真斗のまっすぐな言葉に自信を取り戻す的な。
あの人嘘とか言わなそうだし。





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