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夕暮れロマンス


夕暮れで、オレンジに染まる廊下を弥彦はすごいスピードで走っていた。

時刻は6時少し前。
今日は部活がないので、早く帰れると思っていたが、担任から呼び出され、素晴らしいお話を聞かされ、部活の顧問と話をし…といろいろあって、こんな時間になってしまった。

階段を二段飛ばしで駆け上がり、四階の右側のドアに手をかける。
乱れる息を整えもせずに、弥彦は勢いよく扉を開けた。

「悪ィ、燕!遅くなっ…」

そこには自分の幼なじみである、おかっぱ頭の少女と、見知らぬ少年がいた。
一瞬、少年と目が合う。

「……」

「えと、あの、松田くん…?」

松田と呼ばれた少年は、燕に振り向き笑いかけた。

「俺、諦めないから、三条のこと」

松田は弥彦をにらむ。

「彼氏も…いないみたいだしね」

「・・・」

弥彦は松田をにらみ返した。
それを燕は不安げにみていた。

『それじゃあ』と、松田は去っていった。




「なんだぁ?あいつ」

「あ、ご、ごめんね、弥彦君…」燕は弥彦よりひとつ年上だ。
しかし気が弱く、自分は悪くないのにすぐ謝る。
弥彦が中学一年生にあがった今でも、その癖は治っていなかった。

「謝んなって
遅れてきた俺がわりーんだろうが
それよりさ、


…今の誰だっけ?」

本を片付けようとしていた燕の動きが止まった。

「え…弥彦君も知ってるでしょ?私と同じクラスで剣道部の松田秋斗君。」

「松田ァ?」

そーだそーだ、いたっけ、そんなの。

顔ヨシ、頭ヨシ、運動神経ヨシなモテモテの先輩だ。

そんな奴が…

「アイツ、…燕が好きなんだな」

「…」

燕は赤くなり困ったような顔をし、弥彦から視線を背けた。
そんな燕にすこしムッとしたが、弥彦はハッと気づく。

(こいつにも…いつか彼氏ができる。ずっと一緒にいれるわけじゃねぇんだ…)







「良かったのか?アイツとかえらなくて…」

帰り道、弥彦は燕に聞いた。

「弥彦君こそ…由太郎君に聞いたよ?女の子たちによく帰り誘われてるって…」

「……」

(アイツまた余計なことを…)

その後、沈黙が続いた。

沈黙を破ったのは燕だった。
いきなり立ち止まったかと思うと、弥彦の手をつかんだ。

「…!な、なんだよ」

「…あのね、」

燕はオドオドしながらも、ひとつひとつ言葉を選びながら弥彦に話す。

「弥彦君がそうしたいんなら…私は、無理に『帰ろう』って言わない。
でも、」

思わず口を挟もうとする弥彦をを制止しながら、燕は続けた。

「私は…私はね、弥彦君と2人で帰るこの時間、とっても好きだよ」





『じゃあね』と真っ赤になって、弥彦と別れようとする燕の手を、今度は弥彦がつかんだ。

「弥彦君…?」

「…俺だって、この時間、その…すげー好きだぜ」

照れくさそうに顔を逸らす。

「だから…お前に恋人が出来るまでは、俺が送ってやるから!」

最後は少々威張り気味に言った弥彦だったが、燕は嬉しそうに頷いた。

「ん。じゃあ、家まで送ってやるよ」

「ありがとう…!」

歩き出した弥彦に燕は慌ててついていく。
辺りは暗くなり始めていたが、少年少女の顔は赤いままだった。




「私…一生彼氏つくらないでおこうかな」

「…え!?」


END







紅羅様、お待たせしてしまって本当にスミマセンでした!

中学生パロ…にもあまりみえない(泣)
本当にごめんなさい。


昔からずっと一緒だったけど、この時間はいつまでも続かないんじゃないかと、微妙な心境の弥燕を書いた…つもりです。

弥彦はまだあまり自分の気持ちには気づいていなくて、ただ、『燕との時間は心地良い』ぐらいで。
でも、誰かに取られるのは嫌だなぁ…って感じです。

一方燕は自分の気持ちに気づきつつありますが、弥彦は鈍いので、なかなか気付いてくれません。

弥彦と燕の幼なじみから恋人へ変わる第一歩を目指しました。


返品など受けつけます。
紅羅様のみお持ち帰り可。

リクエストありがとうございました!