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小さな恋の物語


「弥彦くん、燕ちゃん、ちょっと悪いけどお買い物たのまれてくれへん?」

「おう!任せろ!」

「あ、はい…。」








小さな恋の物語











「あとは…、…野菜類だな。」

「うん。…弥彦くん、大丈夫?」

両手に重たい袋を沢山持ち、よろよろ歩く弥彦に、燕が声をかける。

「私、もう一つ持つわ?」

「大丈夫だって!これも足腰を鍛えるいい訓練だよ。」

そういって、汗だくでズンズン進む弥彦の後を、燕が小走りで追いかける。

そんなこんなで進んで行くと、見晴らしのいい野原についた。
沢山の花が咲き近くには、小川が流れている。


「…弥彦くん、ちょっと休憩しない?」

「え!?…いいのかよ?」

弥彦は少し驚いて言った。
いつもなら休憩しようとして注意されるのだ(結局は休憩時間にしてくれるが)。

「…うん。…妙さんも『ゆっくりでいいから』って言ってくれてたし…。お花、キレイだから、見ていきたいの。」


燕はそういったが、弥彦はすぐに思った。
『燕は疲れた俺のために「休憩しよう」と言ってくれた。』と。
そう思うと、『燕に心配かけて…まだまだ未熟だな』という情けない気持ちと、『燕が自分のことをちゃんと見てくれている』という嬉しさでいっぱいになった。

「花が見たいんじゃあ…しょーがねぇな!」

そう言うと、燕が柔らかく微笑んだ。



弥彦は近くにあった大きな石に荷物を置き、自分も腰掛けた。

「…フゥ…。」

「弥彦くん…すごい汗…。」

「え…?」

燕は弥彦の正面にきて、キレイなハンカチを取り出し、彼の汗を優しくふいた。
弥彦は、あまりに燕が近すぎて、顔を赤らめて固まっている。
春風にのって弥彦に届く、燕の匂いに、弥彦の心拍数がはねあがる。


そして燕も、自分の状況に気づき、ハッとして顔を真っ赤にし、固まってしまった。

「お、おお俺、顔洗ってくる!」

「あ、弥彦くん…!」

慌てて、弥彦は川の方へ駆け出した。
『また濡れちゃうよぉ…』という燕の声が彼に届くことはなかった。







(…っ、びっくりした!)

ドキドキうるさい胸を押さえつけ、弥彦は大きな溜め息を一つこぼした。

(なんか、最近変だ。)

燕が、ではなく、俺が。

弥彦は頭をガシガシとかいた。
そして、ふと足元に目をやると、あるものを見つけた。







(どうしよう…。私…弥彦くんを困らせちゃった…。)

燕は燕で、ドキドキしていたが、弥彦を困らせたのではという気持ちの方が大きく、どうすればいいのかわからずオロオロしていた。

「…あっ、弥彦くん…!」

「つ、燕…」

2人は顔を見合わせた瞬間、また赤くなり、うつむいてしまった。

「あ、あの…!ごめんなさい、弥彦くん!私…」

「?なんでお前があやまるんだよ?お前悪くねぇじゃん。」

「え?だ、だって…」

キョトンとする弥彦に、燕も少し驚いた。

「私…、弥彦くんを困らせちゃったと思って…」

「いや…、その、なんだ。ちょっと驚いただけで…。別に困ってねぇし、お前は全然悪くねぇよ。」

その言葉を聞いて、燕はホッとしたようで『良かったぁ』とつぶやいた。

「それから、これ、やる。」

「…え?…!」

燕の瞳とそっくりな、きれいな紫色のスミレだった。

「ありがとう…!」

「おう。」

嬉しそうに笑った燕を見て、弥彦も自然と笑顔になる。

「んじゃ、そろそろ行くか!」

「うん!」

先ほどまでの疲れはもう感じなかった。

2人はまたここに一緒に来ることを約束し、野原をあとにした。
さっきとは違い、弥彦は燕に合わせて、ゆっくりと歩いていた。
それにきがついた燕が笑うと、
『なんだよ。』
と弥彦が照れくさそうに言った。

「…なんでもないよ♪」

ピカピカの太陽が、2人の笑顔を照らしていた。


この2人が自分の気持ちに気づく日は、そう遠くないかもしれない。






END